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SFCの革命者(アーカイブ)
2011.06.23

人とモノ、モノとモノの 豊かなコミュニケーションが 実現する理想の未来社会

SFCの革命者

人とモノ、モノとモノの 豊かなコミュニケーションが 実現する理想の未来社会


高汐 一紀
環境情報学部准教授

ユビキタス研究がもたらす「人とモノ」「モノとモノ」の豊かなコミュニケーションにより実現する理想の社会とはどのようなものか、高汐一紀准教授に話を聞いた。


ユビキタスが社会にもたらすもの

SFCの革命者・高汐一紀駅の自動改札でICカードを利用しているとき、時々機器のエラーが起こって情報を読み取れないことがあります。そしてゲートがバタンと閉まり、なぜかこちらが怒られたような気分を味わう。情報を読めなかったのは利用者の責任ではないのに、ゲートが突然閉まり周囲の視線に恥ずかしい思いをしたりする。このように、利用者が機器やシステムのインタフェースに合わせて行動なければならない状況が多くあります。この状況を改善していくためには、コンピュータも人間の行動に合わせる、つまりコンピュータシステムがもっと人間の状況を高精度で的確に把握し、人とコンピュータ(モノ)との間で高度なコミュニケーションがとれるようにする必要があるでしょう。いつでもどこでも誰もが意識せずともコンピュータやネットワークなどのサービスを受けられる(受けている)ということを「ユビキタスコンピューティング」「ユビキタスネットワーキング」と言いますが、私たちのユビキタス研究では、このようにコンピュータ(モノ)が人間の状況を的確に把握し、それに対して必要な支援をしてくれるような世界をイメージしています。



最後の課題は「モノとモノ」のコミュニケーション

SFCの革命者・高汐一紀ユビキタス研究の究極の目的は、人間社会のコミュニケーションを豊かにすることです。私たちの考えるコミュニケーションには「人と人」「人とモノ」「モノとモノ」の3つありますが、「人と人」については、インターネットなどの普及により、インフラはある程度のレベルになったと思われます。現在は次の段階として「人とモノ」のコミュニケーションを豊かにする研究が進められており、一定の成果をあげています。例えばセンサ(モノ)を持ち歩いていれば、その人が歩いている・座っているなどの情報を感知できますし、センサを部屋の各所に設置しておけば、部屋のどこに座っているのか、そこで何をしているのかといった情報も感知できます。そして次の段階、「モノとモノ」が高度なコミュニケーションをとれるようになると、モノとモノが勝手に情報を共有し、人のこれまでの生活パターンから次に起こす行動を予測し、それに応じた支援をしてくれるようになるでしょう。ひとつひとつとしては複雑な機能を持たない小さなコンピュータが分散し、コミュニケーションをとり合うことにより、大きな機能を果たすようになるのです。そしてもちろん、それらが人間に意識されずに隠れていることが重要です。



ユビキタス研究の次のステップ

SFCの革命者・高汐一紀現在、センサが示すデータやパターンを見ることによって、人が歩いているとか座っているというような単純な情報を取得することは可能です。しかし、同じ歩いているという動作があったとしても、次の行動はその瞬間の気分によって大きく変わります。例えば道路を歩いていて人とぶつかった場合、気分がよければ「ごめんなさい」と言えるところが、気分が悪かったためにけんかになってしまったり。現在の技術では、このような人の感情の起伏といったメンタルな部分まで含めた行動パターンを予想することはできません。そこで、私はこのメンタルな部分の情報の取得についての研究も始めました。現在は基礎実験の段階ですが、心理学分野の先行研究に心拍数の変化などで人間の気分を推定するというものがあり、人間の心拍数や皮膚の温度などを監視する医療用の生体センサを使ってその推定をリアルタイムに実証する研究を進めています。SFCの革命者・高汐一紀これまでのユビキタスのイメージは、いつでもどこでもといった「でもでも」モデルだったと思います。そこで私たちが今、次のステップとして考えているのは「今だけ、ここだけ、私だけ」です。これは、特定の人に特定のとき特定の場所でだけ特定のサービスを提供するというもので、具体例としては子どもの安全を守るための見守りシステムがあります。子どもの行動パターンを見ると、一つのことに意識が行くとそれ以外の状況を見て行動していないことがわかります。そのため、例えば信号待ちをしている時に自分を呼ぶ人がいたら信号の色に関わらず道の向こうへ走り出そうとしたりします。このとき、もし街中に子どもの特性とその時の状態を把握し適切な支援をできるコンピュータシステムがあれば、信号の色の時間に変化を付けて事故を未然にふせぐといったことが可能になるでしょう。東京都北区の商店街で実施した実験では、街路灯のLED化に併せて、ユビキタスネットワークインフラを敷設し、実際に子どもの見守りサービスを運用しました。



5年後、10年後の未来予想図

SFCの革命者・高汐一紀今後、小型のコンピュータを街中に設置したスマートタウンのような構想は至る所で実現されていくでしょう。例えば5年後のSFCを考えると、おそらくキャンパス全体にさまざまなセンサや小型コンピュータが設置されたインフラが整い、学生はスマートフォンのようなモノを通して自分だけのその時の状況にあわせた情報を入手できるようになっているのではないかと想像します。また、10年後の社会を考えると、モノ自体が状況判断能力をもち、アイデンティティをもつようになるかもしれません。そして、そういった能力をもつ米粒ほどの小さなコンピュータが街中に置かれ、モノ自身の判断で人間の行動を支援するようになるかもしれません。このほか、いわゆる人の五感に相当する情報を取得するセンサとそれを遠隔地に的確に伝える仕組みの発展により、人の認識の範囲が飛躍的に伸びる可能性があります。例えばキャンパスにいながらにして自宅の部屋の気配を体感できるとか。このように自分の意識できる感覚の範囲が広がれば、人間自身にも変化が起き、価値観も大きく変わっていくかもしれません。



100%自分仕様のものを

SFCの革命者・高汐一紀多くの人が言うように、SFCが研究を進めていくのに非常に恵まれた環境だということを私も実感しています。例えば、前述のとおり私は人間のメンタルの部分の情報を取得するための方法を模索していますが、人間のメンタルの部分そのものは私にとって専門外の領域です。しかし、様々な領域の研究者がいるSFCでは、他領域の研究者に相談したり、コラボレーションしたりすることもできます。また、街路灯にコンピュータを設置する実験では、私の専門範囲は商店街の活性化への影響などの経済効果にまでは及びませんが、その分野の研究者と協働することが可能です。そういったコラボレーションをキャンパス内で実現できることは、学生にとっても大きなメリットでしょう。さらに、学生は多種多彩な学問領域を横断的に学べるからこそ、その中から自分の本当にほしいものが得られるはずです。学生には、SFCにいられる間に100%自分仕様のものを研究成果としてつくってほしいと思います。社会に出ると、どうしても多くの人が使える最大公約数的な仕様のものを作らなければなりません。せめて大学にいる間くらいは自分仕様の妥協のないものを作ってほしいのです。



高汐一紀(タカシオ カズノリ)

TAKASHIO, Kazunori


1990年、慶應義塾大学理工学部卒業。1995年、同大学院理工学研究科後期博士課程単位取得退学。博士(工学)。電気通信大学電気通信学部情報工学科助手、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特別研究助教授を経て2005年より現職。専門分野は分散システム、実時間システム、モバイルコンピューティング、ユビキタスコンピューティング。文部科学省・科学技術振興調整費「先導的研究等の推進」プログラム「横断的科学によるユビキタス情報社会の研究」プロジェクト(2002年~2005年)など多数の研究プロジェクトにも参加。2006年からは科学技術振興機構・戦略的創造研究推進事業CREST・先進的統合センシング技術「実世界検索に向けたネットワークセンシング基盤ソフトウェアOSOITE」プロジェクトに参加。


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(掲載日:2011/06/23)

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