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SFCの革命者(アーカイブ)
2010.11.17

人間と人工物が共生・共進化していける 世界を実現したい。

SFCの革命者

人間と人工物が共生・共進化していける 世界を実現したい。


脇田 玲
環境情報学部准教授

プログラマブル・マターと呼ばれる技術によりサイバー空間の3DCGのように、実空間の物質をプログラムしようとしている脇田玲准教授。今後さらに情報化が進む実社会においてこの研究が重要な役割を担っていくと語る脇田准教授に、その意味・可能性について話を聞いた。


形状をプログラムできる物質

SFCの革命者 脇田玲准教授プログラマブルマターと呼ばれる、色や形をプログラムできる物質と構造物の研究をしています。例えば、目の前の机に「丸くなれ」と伝えると丸くなったり、座っている椅子に対して「疲れたな」といって伸びをすると椅子がリクライニングしてくれるような世界を作りたいのです。その作り方としては色々な手法があるのですが、物理学者たちの間でいまトレンドなのは、モーターや無線の受信機が入っている超小型ロボット(セル)を作り、その一つ一つのセルが他のセルと通信をしながら全体として群としての形を変えていく仕組みをつくることです。現在ではまだ一つのセルが大きいので、群となったときの大きさはかなり大きいのですが、将来は数ミリまで小型化することで粘土のような群集ロボットが実現すると考えられています。その分野の中で私がやっている研究は、人工筋肉と呼ばれている繊維状の形状記憶合金を布に何本も埋め込み、一本一本の人工筋肉の収縮を電子制御することで形を変えていくというものです。ディスプレイの中では可能であったプログラムの通りに色や形を変えていく曲面を、実空間の中で実現しているんです。



ヨットから芽生えた

3Dモデリングへの興味


SFCの革命者 脇田玲准教授SFCの学部生時代、ヨットに結構真剣に打ち込んでいました。プレイヤーとしてやっていたヨットなのですが、もっと速く走らせるためにはどうすればいいのだろうかということを突き詰めていくとヨットのキールやセールの形状、学問分野で言うと流体力学に辿り着くんですね。その時点では好奇心程度ではあったのですが、流体や曲面の興味が増していき、そもそもそういった曲面はどうやって作るんだろうと調べてみたら三次元CADの研究に出会ったわけです。学部4年生から三次元CADを専門とする千代倉弘明先生の研究室に所属し、大学院の博士課程を修了するまでの間、三次元CADのモデリング機能の研究をしていました。周辺研究として三次元CGのレンダリングの研究、メディアアートなどがあり、現在の研究の基礎となる三次元のユーザーインターフェイスに繋がっていきました。



プログラマブルマターとの出会い

SFCの革命者 脇田玲准教授博士課程修了後は会社を設立し、インターフェイスデザインやメディアアートの仕事を本格的に始めました。ウェブ上で3Dを扱うVRMLと呼ばれる技術等を利用した創作活動をしていたのですが、日経アーキテクチュアのデザインコンペでグランプリを頂いたことがきっかけで、3Dユーザーインターフェイスの設計やデザインが主な仕事になっていました。そんな中、SFCから教員へのお誘いをいただき戻ってきたわけですが、ちょうどその頃、ソフトウェアだけではなく触れるもの、リアルなものを作っていこうという考えがSFCの中で重要視されていた時期で、その時に偶然に関わったウェアラブルコンピューティングの研究が発端となり「布」を使った研究を始めました。布を利用した研究は電子制御で色を変えることができる服の開発、そして先ほどお話しした電子制御により動く布へと発展していきました。そして実はいま力を注いでいるのはゲル状のプログラマブルマターなんです。



生き物のように動くスライム

SFCの革命者 脇田玲准教授子供の頃に作ったことがあるかもしれませんが、スライムは洗濯のりとホウ砂と水を混ぜれば作れます。そこに磁性粉末を混ぜ、プログラムでコントロールされた磁場の中に置くことで、スライムを生物のように動かすことができます。専門用語ではゲル状の磁性流体と呼ばれるものの一種なのですが、プログラミングした通りに形を変えたり、分散したり融合したりと、形状をコントロールできるんですね。それを応用するとキーボードで「HELLO」と打ち込むと、一つの塊だったスライムがその空間上で「HELLO」という文字に形を変えることもできたりするわけです。最終的にはもっと複雑な形状を作れるようにして、建築やプロダクトデザインの支援をするようなツールに発展させていきたいんです。現実空間を三次元CGのように扱えたら面白いと思っています。



自然の中に解がある

SFCの革命者 脇田玲准教授研究室ではこの他にも、生物の動きや群れの振る舞いをモデリングし、シミュレーションする研究も行っています。有名なものとして、蟻が餌を見つけてフェロモンを出しながら巣に持ち帰るまでの一連の流れのシミュレーション(蟻コロニー最適化)があります。これは1匹1匹の蟻が餌やフェロモンに対してどう動くかだけをルール付けしておいて、その結果として集団の動きをシミュレートしているんですね。自然の中の知性の多くは、環境に対して動的に反応して解を作っていく仕組みに基づいています。生物を模倣する人工物を作ることで、自然の仕組みがどうなっているかを探りたいんです。これって自然を直接参照しているわけではないんですね。あたかも自然物のように人間と共生できたり、共進化できるような人工物を作りたいんです。この研究が進むことで、他の環境に悪影響を与えることなく、実空間の中のものをプログラミングすることにつながると思うんです。いままでの建築やプロダクトデザインの材料に代わる、新しい物質や構造物を作っているわけなのです。



情報デザインのシーズの宝庫

SFCの革命者 脇田玲准教授教員として戻ってきて感じるSFCの良さの一つは、ほとんど全ての分野の研究者が集まっているので、多様な分野でのインターフェイスの課題が見えてくることです。例えば、インターネットというインフラがこれだけ普及して、車にはITSが導入され、住居にも衣服にも、あらゆる空間が今後情報で満たされていくわけですね。そして様々なスケールで情報が溢れてきたときに、性質に応じて情報の見せ方は変わってくるのです。そのとき重要になってくるのが私が研究しているようなヒューマンインターフェイスであり、そこは情報デザインのシーズの宝庫なんです。さらにSFCには、社会への利活用を共同で実験できる環境があります。自分の研究成果が社会的にインパクトを与えられるフェイズになったときに、社会科学の研究者とコラボレーションすることで社会実験をすることができます。このような点にSFCで研究ができる幸せを感じます。



脇田玲(ワキタ アキラ)

WAKITA, Akira

1997年、慶應義塾大学環境情報学部卒業、1999年、同大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了、2002年、同大学院博士課程修了。博士(政策・メディア)。2004年、慶應義塾大学環境情報学部専任講師に就任後、2007年より慶應塾大学環境情報学部准教授。専門分野は情報デザイン、スマートマテリアル、3次元CADCG。主な著作:『デザイン言語入門 -モノと情報を結ぶデザインのために知っておきたいこと』慶應義塾大学出版会、『MODELS-建築模型の博物都市』(共著),東京大学出版会、『デザイン言語2.0- インタラクションの思考法』慶應義塾大学。主な受賞:アジアデジタルアート大賞デジタルデザイン部門 優秀賞 (2003) 、文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品 (2002) など。


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(掲載日:2010/11/17)

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