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SFCの革命者(アーカイブ)
2010.09.10

働くという事をデザインする。(花田 光世 総合政策学部教授)

働くという事をデザインする。


花田 光世
総合政策学部教授

社会、組織、個人それぞれの関係性の中で、「働く」ということに対する考え方や、それを考えることの必要性を提唱している花田光世教授。自身が実践を通して得た体験を交え話を聞いた。

理論より実践

革命者大学時代は心理学を勉強していました。当時、心理学というのは今のように多くの人に興味をもたれているような分野ではありませんでした。特に私が在籍していた慶應義塾大学文学部心理学科というのはすごく小さな学科で、同期のほとんどは教員や研究者になっているような特殊な学科だったんです。そこで「実験心理学」によって心理的現象を解明する領域を中心に勉強していました。元々、社会心理学や教育心理学といった分野に興味を持っていたこともあり、社会的な背景がどのように一人一人の心の持ちようや考え方に影響を及ぼすのかといった実験や研究を進めるようになっていきました。学部卒業後は教育心理学や組織行動学といった、より幅広い分野を研究していきたいと思いアメリカに留学することにしたんです。ただ、研究といっても理論的学問よりも実践的な活動や、具体的に一人一人の行動の実践に関わるようなことをしたいと考えていましたね。

実践活動から学ぶ

革命者南カルフォルニア大学の大学院に入り、教育心理学と社会学の2つの修士号と社会学の博士号を取得しましたが、研究室にこもっていたというよりは、実際の社会の現場で本当に様々なことを学びました。例えば教育学では、スクールカウンセリングを学び、School Psychologistという立場で活動をしていました。重度の障碍をもたれた方々の社会復帰支援の活動です。また、ボランティア活動をベースにした社会活動の仕組みづくりのお手伝いもしていました。アメリカには日本の「県・市・町」のように「州・郡・市/町」があるのですが、非常に特殊なケースですが、住民の意思で「市や町」を設置していない地域もあるのです。公共サービスは「郡」から受けるのですが、市や町の自治体組織は持たないという選択ができます。その結果、様々な不便な問題も起きてくるんですね。そうすると問題や相談を受け、市や町の代わりに郡と住民とをつなぐ支援相談組織がボランティアベースでできてくるのですが、私はその中で教育に関わる分野でカウンセリングを行っていました。また、組織学/社会学の分野で、多様な国籍や人種の従業員がいる企業・工場の中で、一人一人の多様性を維持したまま、どのようにして心が一つになり、前向きに働くことができるかという支援の方法を研究すると同時にその実践活動に参加していました。

実践活動の経験を還元する

革命者大学院修了後もアメリカで研究や実践的活動を続けていたのですが、もう少し違う視点から社会に関わってもいいのではないかという思いが徐々に強くなってきていたんです。丁度その時期に産業能率大学から、今までにない新しい大学組織を作るので参加しないかというお誘いをいただきました。私は新しいものを作っていくということが大好きなので、時期的にもいろいろ考えることがあった時であり、是非その活動に参加してみたいと日本に帰ることにしました。1978年のことです。大学では学生を指導しつつ、海外進出を行う日本企業と一緒に現地従業員の教育支援プログラム作成のサポートをしていました。当時は日本企業の海外進出がはじまったばかりで、まだどうすれば現地従業員を教育し巻き込みながら工場などを立ち上げていけるかというノウハウなど殆ど無かった時代です。私はアメリカ時代に多様な立場の方々を支援してきたバックグラウンドがあり、同時に心理学的な経営パッケージが海外から日本に入りはじめた時でもありましたので、それらを活かしながらサポートすることができました。現地に泊まり込んでの採用活動から、教育、チームの立ち上げ、その後の支援方法の検討まで、企業と仲間になってあらゆる活動を行っていました。

今までにないものを創造していく

革命者産業能率大学での活動が丁度一巡したと感じていたころに、今度は慶應義塾大学のSFCが開設されるということで、その活動に参加する機会を頂き、新たな創造にチャレンジすることにしました。SFCに来てからも実際に学生が社会に出て活動し、学ぶことができるような授業の仕組みを考え構築していきました。例えば学生諸君が様々な組織や団体の活動に参加し、ボランティアやインターン体験などをしながら、社会に出て活動を行う体験ができるような授業の工夫を行ってきました。企業の中で体験出来るような、今でいうところのインターンシップのような授業です。学生の就職や進路においても、まだ前例のない一期生、二期生の卒業にあたっては、どんな学生がいるのかを社会、特に企業の人事の方々に知ってもらう必要がありました。とにかく毎週あらゆる企業人事の方にSFCに来ていただき、学生や授業を見ていただいて、「こういう学生が育っているからよろしくお願いします」という活動を行ってきました。新設学部の社会的認知を企業の人事の方々にしていただくのはなかなか難しいのですが、努力してその仕組み作りと運営を行いました。でも今から思えば充実した愉しい時間でした。

キャリア・リソース・ラボ

革命者1999年、SFC研究所で村井先生のインターネット系のラボとともに、第1号のラボとしてキャリア・リソース・ラボを創りました。ラボでは企業と一緒になって、従業員一人ひとりが自律的に自身のキャリアを形成できるように、企業内での支援を行う仕組みやプログラム作りのサポートをしています。いわゆるコンサルタントとしてではなく、企業の方々と一体となって一緒に考えて行動も共にするのです。そのためにはいろいろな立場の従業員と同じ視点を持つことが大事になってきますし、また最終的には私たちがいなくなった後もそのプログラムが組織内で定着するように、トレーナーの育成も重視しています。パッケージプログラムは世の中に溢れていますが、ゼロベースで現場の視点に立って支援を行うこと。常に試行錯誤をしながら、新しいものを創り上げていくこと。それが大学の使命だと思って活動しています。

常に走り続けていく

革命者ここ5・6年程はJICA(国際協力機構)に協力して、開発途上国や産業面で困難のある国の産業教育を担当する役人の方や人事教育担当者を数週間日本にお招きして、キャリア教育や職業教育の設計を一緒につくっていく活動を行っています。それぞれの国にあわせてどのような産業教育を構築したらいいのか具体的な教育プログラム、パッケージをどのように分かりやすく作成したり、従業員一人ひとりが当事者意識を持って各現場で活動するための心構えや、働くということに対するマインドセットの教育教材の開発です。「働く=スキルや知識だけでなく、前向きな気持ちをどうもつのか」を徹底的に理解していただく。それは、どこの国の組織や企業でも変わらない重要な基本的な考えだと考えています。そのためには産業教育のコンテンツに関するしっかりとした理念やビジョンが必要であり、それをわかりやすく説明する教材が必要です。そのような活動を重要と考え実践しています。私は生涯現役を推奨する立場ですから、今後とも社会の中で色々な方々と共に常に走り続けていきたいですね。

花田 光世(ハナダ ミツヨ) 
HANADA, Mitsuyo

1971年、慶應義塾大学文学部心理学科卒業後に渡米。南カリフォルニア大学大学院で、1974年に教育心理学修士号、1976年に社会学修士号、1978年に社会学博士号を取得(Ph.D.-Distinction)。カリフォルニア州立大学ロサンゼルス分校社会学部講師、産能大学経営情報学部教授、同大学国際経営研究所所長を経て、1991年慶應義塾大学総合政策学部教授に就任。現在は慶應義塾大学SFC研究所キャリア・リソース・ラボラトリ代表を務める。専門分野は人的資源開発論・キャリア論。国際人事システム論、新人事組織設計論なども加え幅広く研究実践活動に従事。主な著作・論文:人事制度における競争原理の実態(1987年度組織学会最優秀論文賞受賞)、個性主義に根ざした人事制度の展開(一橋大学ビジネスレビュー、1989年)、コア人材の機能と条件(ダイアモンドハーバードビジネス、1995年)ほか。

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(掲載日:2010/09/10)

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