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SFCの革命者(アーカイブ)
2009.07.30

表層でなく根幹から考えた時に、 美しいデザインが生まれる。

SFCの革命者

表層でなく根幹から考えた時に、 美しいデザインが生まれる。


山中 俊治
政策・メディア研究科教授

車のデザインから陸上アスリート用の義足のデザインまで、デザインとサイエンスの垣根を越えて活躍している日本を代表するインダストリアルデザイナーの山中俊治教授。自身のこれまでのデザイン人生の歩みを追いながら、デザインに関する想いや考え方について語ってもらった。

漫画ばかり描いてた学生時代

革命者僕が通っていた高校は有名な進学校で、美術やデザインの学校ではなかったんです。受験一筋で頑張って東大理科一類に受かったのですが、入った途端に目標を見失ってしまいました。よくある5月病みたいなものですが、それが少しおそく来た(笑)。そんな2年生の最初の頃だったか、試験勉強をしながらふと机の脇にあった漫画を模写してみたんです。そしたら意外と上手く描けて、夢中になって朝まで描いてしまい、そのせいで試験が駄目だったということがありました。それがきっかけで東大の漫画研究クラブに入り、そこから2年間は仲間達と一緒になって本当に漫画ばかり描いていました。自作の漫画をコミックマーケットに出していたので、プロの出版社から声がかかったりもしました。漫画家になる事も考えたのですが、親に申し訳なく思い踏み切れず、そのまま卒業する年になってしまいました。どうしようかと考えていた時に、友達から、工業デザイナーという仕事があるらしい、と聞きました。工学部で機械工学を学ぶ一方で漫画も描いていたので、この仕事は両方の特徴を活かせるんじゃないかと思いました。
※右のマンガは山中教授が数年前にデザイン雑誌のために描いた漫画原稿の一部。

デザイン学校のような場所だった日産

革命者インダストリアルデザイナーという仕事に興味を持って色々調べていたら、大学の先生の紹介で日産自動車のデザイン部長にお会いすることができました。「東大にデザイナーになりたがっている変わったやつがいるんで会ってやってくれないか」という風な流れだったと思います(笑)。デザイン部長のお話をお聞きしたら、カーデザインという仕事がすごく魅力的な職業に思えたので、その場で「採用していただけませんか」とお願いしました。その後、紙袋2つ分の漫画原稿や車の絵を持って行き、何度か話を聞いていただくうちに、採用していただけることになりました。日産のデザインセンターはすばらしいところでした。絵を描くのも物を作るのも好きだったので、なんと幸せな仕事なんだろうと思いました。インダストリアルデザインに必要な知識や技能のほとんどをそこで学ばせてもらいました。当時のカーデザインという分野はデザイナーの中で最も有能な人達を吸収していた職場でもあり、常に世界の最先端デザインにダイレクトに触れることができました。とても充実していたのですが、ひとつ期待と違っていたことがあったんです。もっと車の根幹部分の設計にも関われると思っていたのですが、実際は思ったより分業が進んでいて、車の性能や仕組みに関わる部分はほとんどエンジニアが決めて、その外側をどう覆うかがデザイナーの仕事でした。もっと根本からデザインする仕事をしたいという思いが少しずつ募っていき、5年後には独立します。

インダストリアルデザイナーとしての仕事

革命者日産自動車退社後はフリーのインダストリアルデザイナーになったのですが、まもなく、すでに名を馳せていたコンセプター、坂井直樹さんにカメラのデザインをやらないか、と声かけていただきました。坂井さんがコンセプトワークをし僕がデザインをまとめたこの製品は、1988年に「O-Product」という名前でオリンパスから発売され、世界中で大きな反響を呼びました。1995年にはMoMAの企画展に招待出品もされています。坂井さんとはいろいろな仕事をし、ビジネスの組み立て方から、プレゼンの語り口まで様々なことを学ばせてもらいました。その坂井さんは現在僕と同じ政策・メディア研究科の教授でもあります。

大学は宝の山だ

革命者1991年には東大の助教授に就任しました。そこで改めて学内のいろいろな研究室を見回すと、そこは「宝の山」だと感じました。デザインのネタ、未来の商品のための技術シーズが山ほどある。ある程度完成された技術に形を与えて商品にするのが企業の一般的な開発プロセスですが、ここにあるシーズに直接形を与えることができたら、もっと夢のあるものが作れると感じました。ただその頃は、どこから手を付けたらいいのかもわからなくて、手も足も出ませんでしたが(笑)。しかし、授業の中でそういう物づくりについてずっと訴えていたら、自分もデザインしてみたいという学生が何人か現れてきて、少しずつ夢のある物づくりが現実になっていったのです。1994年にはLeading Edge Designという会社を立ち上げましたが、技術と芸術の接点とも言える理想に近い形でものを作る事がやっとできるようになったのは、2000年になってからです。

SFCはアイデアを出す教育に成功している

革命者
SFCには2006年頃から「デザイン言語」科目のゲスト講師として何度か呼んでいただきました。そこで、脇田玲先生や田中浩也先生などの、電子工作をしながらメディアアートに取り組む研究者達に出会って「ここにも同志がいる」と思ったんです。ある意味デザインの専門でもエンジニアリングの専門でもない、しかしだからこそ自由にものづくりをやっている同志がいると。その後、脇田先生と共同でephyraという作品を作る中で、たくさんのSFCの学生と接して来ました。SFCの学生は皆モチベーションが高く、フットワークが軽やかでいいなぁ、面白い事がやれそうだなと感じていたら、政策・メディア研究科の教員になるお話をいただきました。SFCに来て一番面白いと思ったのは、アイデアを出す教育に成功していることです。1年生から4年生まで同じ課題を出すと、アイデアのレベルに歴然とした差があるんです。意外に他の大学はそうでもなく、1年生の方が4年生より良いアイデアを出す事は決して珍しい事ではありません。専門教育のなかで膨大な知識・スキルは身につけているけれど、アイデアを出すスキルは学んでいないことが多いんです。SFCの学生は分野にとらわれずにクリエイティビティを発揮することができる素質を持っていると思います。

過去の骨格に学び、未来の骨格をデザインする

革命者
撮影者:吉村昌也
8月末まで、六本木ミッドタウン内のデザイン専門施設「21_21 DESIGN SIGHT」にて僕がディレクターを務める「「骨」展」という展覧会が開催されています。この企画は3年程前にお話をいただき、僕はディレクターという立場で、テーマ、空間のイメージ、展示するものを決めました。大きなテーマは、まず「物作りの姿勢を根幹から考える」ということです。デザインというと外側だけ考えると思われがちですが、品等に美しく実用性のある製品を作るためには、骨・骨格から、つまり技術の根幹から考えることがとても重要です。展覧会は「標本室」と「実験室」の二部構成になっています。標本室では、生物の骨と工業製品の骨をたくさん収集してきて展示しています。非常に完成度が高くて繊細で複雑な工業製品の骨格からは、生物の骨と同じように命が宿っているような迫力を感じる事があります。ここではその生命感を感じていただければ嬉しいですね。実験室にはデザイナー、技術者、アーティスト、からくり人形師など10の作家に「骨から考える」作品を作ってもらいました。体験型の楽しい作品がそろっています。骨から考えると言う事は、新しい体験を生み出すことなのだと確信できました。是非、皆さんできてみて欲しいと思います。

先端技術を使った身体性のデザイン

革命者
撮影者:清水行雄
この4月からSFCで、政策・メディア研究科の「エクス・デザイン」プログラムの教員が中心となって「Factory of X Design(エクスデザイン工房)」というプロジェクトを始動させました。SFCに工作機械を持ち込んで直接物作りが出来るようにしたいと思っています。コンピュータテクノロジーがネット上で洗練されればされるほど、物理的に僕らの生活にどう影響を与えるのか、バーチャルの世界と実生活をどう結びつけるかがとても重要な問題になってきています。最先端の技術と身体性との関わりを鋭く切り出すようなプロトタイプの制作をめざします。そうした活動の足がかりの一つが一つが、表現手段としてのロボティクスです。「「骨」展」に出した「Flagella(フラゲラ)」は今のところ役に立たないのですが、全く新しい構造を提案し、異様になまめかしい動きを実現しました。さらには、人間の身体と機械が直接絡み合っていくような世界のデザインにも活動を拡げたいと思っています。今、パラリンピックで活躍する、選手達や義肢装具士さんと一緒に「美しいスポーツ義足」の研究を始めています。最高に美しい義足で金メダルを取るのが夢ですね。

山中 俊治(ヤマナカ シュンジ)
YAMANAKA,Shunji

1982年、東京大学工学部卒業。同年、日産自動車デザインセンターを経て、1987年、インダストリアルデザイナーとして独立。1991年〜1994年、東京大学工学部助教授。1994年、Leading Edge Design設立、代表。2008年、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授に就任。現在に至る。技術とアートを融合させたデザインにより、自動車、カメラ、腕時計、ロボット、携帯電話、家具、Suica自動改札機のインターフェイスなど、数多くの製品や基盤技術を世に送り出している。2004毎日デザイン賞、グッドデザイン賞2006金賞受賞など受賞多数。

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(掲載日:2009/07/30)

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