グローバル・ガバナンスとリージョナル・ストラテジー(GR)

 ガバナンスの実質について語ろう

チェアパーソン 田島 英一 教授

中国の経典『大学』に、「修身斉家治国平天下」という言葉があります。「修身(個人の修養)→斉家(家庭の平和)→治国(国内政治)→平天下(グローバル・ガバナンス)」という論理で、「世界秩序も個人の心がけから」という、ある意味、ボトムアップの思想です。「グローバル・ガバナンス」と銘打った書籍では、国連、国際機関、国際NGOといったアクターから説く「上から目線」が多く見られますが、グローバル社会も人間の集まりである以上、人を知り、人と人とのつながりを模索する発想がないと、「リアリズム」を自称しつつ、かえってリアリティから遠ざかりかねません。K.ヤスパースは、古代イスラエル・ユダ王国で預言者たちが活躍し、ギリシャにソクラテス、プラトン、アリストテレスが現れ、インドで仏教が起こり、中国に諸子百家が登場した紀元前500年前後の時代を、Axial Ageと呼びました。これらの思想に共通して言えるのは、まずは人間存在の本質を考え、個人の自覚を問うという姿勢です。近代以降も、例えば『国富論』を書いたA.スミスは、『道徳感情論』において、市場が欲望の暴走によるホッブズ的闘争に至らないのは、人間の共感能力を基礎とした、個人の心に宿る「公平な観察者」のせいだと言いました。M.ウェーバーは、西欧の資本主義を支えたのは個々の資本家の心に根を下ろした、いわば世俗化したプロテスタント倫理だとしました。グローバルに広がる市場も、往々にして「リアリズム」が暗黙の前提とする、ホモ・エコノミクス的人間像を想定しただけでは、成り立たない側面があるわけです。

 無論、だからと言って、「上から目線」が不要だということではありません。キリスト教的リアリズムで知られる米国の神学者R.二―バーは、善を罪に転じてしまう人の弱さを分析し、そうした罪が生み出した社会主義との対決を呼びかけ、米国外交にも影響を与えました。2018年にペンス副大統領がハドソン研究所で行った対中批判演説は、かなりの部分を中国における米国ミッションの歴史に割いていますが、やはり言葉のはしはしに、ニ―バー的伝統をにじませています。人間のリアリティは多面的で、国民国家が諸制度や暴力装置を管理する現状にも、いまだ一定の合理性があると言わざるをえません。

 また、『大学』の作者が見落としていた、上下双方向に作用する中間レベルも、近年ますます重要性を増しています。例えば、「斉家」と「治国」の間の自治体、中間組織、企業、「治国」と「平天下」の間のEUやASEAN等です。特に自発的中間組織は、熟議や協働のプラットフォーム、“A Place for Us”(B.バーバー)、あるいは「政治の失敗」「市場の失敗」を補う存在として、期待されています。

 下から人を動かすもの、上から人を統御するもの、間にあって上下をつなぐもの、そのすべてをアクターとして考慮に入れなければ、ガバナンスは構想できません。そして、幸い我々のプログラムには、そのいずれについても、知見を得る契機があると考えます。政治、国際関係、安全保障、サイバーセキュリティ、地域、宗教、歴史、親密圏、人間行動、言語等、重点の所在は人それぞれですが、「上・下・間」の全体を見渡す視野を持つ研究者たちが、大学院生のみなさんと次の時代にあるべきガバナンスを構想せんと、待っています。

関連アカデミックプロジェクト

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(参考)塾生HP:【SFC】履修案内・講義要綱・時間割>政策・メディア研究科>大学院プロジェクト科目 担当者・登録番号表(PDF)

メンバーリスト

2019年10月現在
◎印はチェアパーソン

氏名 職位 専門分野
ヴ,レ タオ チ 特任講師 リスク論、人間行動と意思決定、人間の安全保障,ナラティブ、社会発展
逢阪 貴士 教授 社会安全政策、警察学、刑事司法、サイバーセキュリティ
加茂 具樹 教授 現代中国政治外交、比較政治、東アジア国際関係
神保 謙 教授 国際安全保障論 アジア太平洋の安全保障 東アジア地域主義 日本の安全保障政策
◎田島 英一 教授 中国地域研究、中国市民社会論、公共宗教論、中国キリスト教系団体研究
田中 浩一郎 教授 イランを中心とする西アジア(中東)地域の国際関係とエネルギー安全保障、および平和構築と予防外交
土屋 大洋 教授 サイバーセキュリティ、国際関係論、情報社会論
鶴岡 路人 准教授 国際安全保障、欧州政治、EU、NATO、核政策
鄭 浩瀾 准教授 中国近現代史、中国地域研究
中山 俊宏 教授 アメリカ政治・外交、日米関係、国際政治
野中 葉 准教授 現代東南アジア研究(特にインドネシア)、現代社会と宗教、女性とイスラーム、マレー・インドネシア語教育
廣瀬 陽子 教授 国際政治、紛争・平和研究、旧ソ連地域研究(特にコーカサス)

教員検索(教員プロフィール)

キャリア・資格等

具体的な就職先、進路としては、政府系・民間系の研究機関、国内外の公務員、メディア関連・教育関係の諸機関があげられます。具体的には、国際協力銀行(JBIC)・開発金融研究所、国際協力機構(JICA)、国際金融情報センター(JCIF)、民間コンサルティング・ファーム、国際NGO、国家公務員総合職、外務公務員(在外公館専門調査員を含む)、国際公務員、国際ジャーナリストなどに実績があります。教育研究専門職志望者には博士課程への道も開かれています。

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