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2022.08.19

AI3プロジェクト パラボラアンテナが撤去

CBand Antenna_r.jpg長きにわたり、タウ館横に設置されていたパラボラアンテナ ―Cバンド地球局設備― が8月3日、撤去されました。民間では珍しい、直径7.6メートル、送信出力100ワットもある大型アンテナでした。(アマチュア無線が趣味の方には通じると思いますが、国際通信のために JC222 というコールサインも付与されていました。)

このパラボラアンテナは、衛星インターネットに関する研究の実証実験のために、1999年10月に設置されたものです。慶應義塾大学、郵政省通信総合研究所(現:国立研究開発法人情報通信研究機構)、(株)日本サテライトシステムズ(現:スカパーJSAT(株))の3者による共同研究の一環でした。この共同研究はAI3プロジェクト(Asian Internet Interconnection Initiatives Project)と名付けられ、代表を村井純慶應義塾大学教授が務めました。

AI3では、東南アジア地域の大学から共同研究パートナーを募り、相手機関にもCバンド地球局設備を設置し、SFCとインターネット接続をしました。最終的には13カ国がこのアンテナと接続し、東南アジア全域をカバーする通信基盤を構築しました。(インドネシア、ラオス、ミャンマー、タイ、マレーシア、ベトナム、フィリピン、カンボジア、バングラデシュ、ネパール、東ティモール、シンガポール、モンゴル)

Anthenna_IMG_5705.JPG

AI3の成果として、次の3点があります。
第1に、衛星インターネットに関して多くの研究が行われました。情報通信の研究開発では、テストベッドと呼ばれる実証実験用のネットワークが必要です。AI3のネットワークは、世界でも珍しい衛星インターネット研究のテストベッドとして活躍しました。
第2に、東南アジア地域のインターネット普及に貢献しました。AI3が始まった1990年代後半から2000年代前半、日本では既にインターネットブームが到来していましたが、東南アジアの中には「これから」の国が多数ありました。このアンテナを通してインターネットに接続したことが、インターネット普及のきっかけとなった国もあります。
第3に、東南アジア地域の人材育成に貢献しました。AI3に関わった東南アジアの研究者は、多くが「その国のインターネット研究者1期生」として、研究機関・政府機関・民間企業で活躍し、当地のインターネットを支えています。

このように多くの成果を出したAI3ネットワークと、その中核であったアンテナでしたが、設備の老朽化に伴い、建て替え、または廃止が必要となりました。ここで廃止の決定に影響を与えたのが「5G干渉問題」です。現在、携帯電話事業者が「5G」と呼ばれる新規格の全国展開を進めていますが、このアンテナがSFC近辺における5G導入を妨げていることがわかりました。AI3で利用しているCバンドと呼ばれる電波と、5Gで利用する電波の周波数が近く、干渉するためです。

5Gのために貴重なテストベッドネットワークを廃止するのか、それとも、電波利用の既得権があるのだから存続させるべきか、検討を重ねました。そして、SFCや近隣住民の皆様の幸せのために、5Gを優先することにしました。

多くの研究成果を出し、東南アジアのインターネット発展を支え、長年SFCのシンボリックな存在でもあったアンテナでしたが、キャンパスの夏季休業期間中の8月3日、ひっそりと役割を終えました。研究のため、東南アジアのために利用していた電波は、今後、5G携帯での利用という形で、SFCの皆様の日常を支えることになります。

(SFC研究所上席所員 渡部陽仁)

【関連リンク】
SFC研究所 インターネットリサーチラボ

ASCII.jp「Cバンドによる衛星インターネットプロジェクトなど最先端の研究を公開(SFC OPEN RESEARCH FORUM 2000その2)」(2000年9月26日)
https://ascii.jp/elem/000/000/317/317227/

発信元:湘南藤沢事務室総務担当