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2022.02.08

立春の日のつれづれなる日記|健康マネジメント研究科 公衆衛生・スポーツ健康科学専攻長 前田 正一

前田先生.pngおかしら日記! 日記という類のものはこの歳になるまで書いたことがなく、何を書けばよいのか、筆が進まずに困っている。専門分野の原稿であれば、嫌々ながらも何とか締切期限内(?)に纏めるのであるが・・・。それで、この日記についてはどうしよう。

困り果てて暦を眺めてみると、今日は立春。春とは名ばかりで、寒さが厳しく、今朝は自宅で霜柱を見つけた。田舎で育った私にはとても懐かしい光景だった。幼少期のこの時期には、毎日のように辺り一面が霜で真っ白な状態となり、通学路の田圃道の両端には霜柱が長く連なっていた。登校時には、つま先の冷えも気にせずに氷柱を踏み続け、つぶれる際に奏でられる独特の音色を楽しんでいたことを思い出した。今日は、霜柱との遭遇もあったので、出勤前に少しの時間、このところ手を付けることができておらず気になっていた栽培中の植物を観察してみた。菜の花は蕾をつけ、蕾にとまった小さな水滴は陽ざしを受けて輝いていた。隣のチューリップは土の中から芽を出していた。寒さの中にも春の始まりを見つけた。

実は、幼いときからガーデニングやフラワーアレンジメントが大好きで、加えて言うなら、料理も大好きだ。料理についてはケーキも作れるし、魚の三枚おろしもできる!大学時代まで、大人になればお花屋さんを併設する暖炉付きの喫茶店を経営したいと、半ば本気で考えていた。
ところで幼少期は、毎日、近所の友だちを誘い、野山を駆け回り、山では杉玉でっぽうを作り戦闘ごっこを繰り返す、野原では竹とんぼを作り飛距離を競いあうといった、屋外遊びが中心の腕白少年だった(ちなみに、竹とんぼについていえば、今では完成した羽と完成した軸がセットになって売られているが、自分で作ってみると試行錯誤が必要であることを子どもながらにして気づかされる。羽の長さ・幅・厚さ、軸の長さ・太さ、そしてそれらの組み合わせの違いによって飛距離が異なることを発見する。その後は、素材である竹の乾燥の程度も飛距離に関係するのではないかと考えたりする。いろんな組み合わせの竹とんぼを作っては飛ばしてみて、着地した場所に軸をさして保存、飛距離を比べてみるなど、いま思えば、地面を用いた「実験ノート」づくりもよくやった)。
屋外で動き回る一方で、自宅では常時、草花の栽培を楽しんだ。父親に頼んで温室も作ってもらった。今思えば、本務のはずの勉強などはそっちのけ、椅子に座り机に向かってする勉強などは大学生になるまでは熱心にした記憶がない。

ということで、自画自賛だが、草花のことは、素人にしては少しだけ詳しい。今では環境破壊としてとがめられそうだが、学生時代には、一人暮らしの部屋に冷房をつけ続け、珍しい色・形のビオラやパンジーの種を取り寄せては夏から育苗するなど、けっこうチャレンジもしてみた(ちなみに、私の研究領域は、医事法・生命倫理、研究倫理、リスクマネジメントといったところで、生物学や農学などではない)。そんなこんなで、昨年は、東京の自宅でお正月飾りに付いていた稲穂を保存しておき、暖かくなった5月ころに200粒ほどの籾をまいてみた。3粒の籾が発芽し(発芽率が低いのは、成長を遂げる前に収穫したためか、収穫後に年数が経過したためではないかと、勝手に推測)、秋には10数本の稲穂ができた。数えてはないが、籾にして1000粒近くだろう。

まもなく学生は学部を卒業し、大学院を修了する。この時期は、チューリップが芽を出し、開花していく時期でもある。チューリップの球根は、冬の間、芽を出してはいないが冷たい土の中で深く根をはり、花芽を作っている。花芽は、寒さにあわなければ作られない。毎年、送り出す学生を、私は、この時期の好きな花の一つでもあるチューリップと重ねて見てしまう。根をはった学生たちの将来を楽しみにして。
そして、今年は、3粒の籾が1000粒の籾を作ったことも重ね合わせた。卒業生・修了生には、ぜひ次世代へと繋がる多くの人々を誕生させてほしい。

今週のはじめに学位論文審査を終え、昨日には関係書類の作成がほぼ終了した。この時期は、教育者としてもとてもうれしい時期である。学生には、それぞれの領域でフロントランナーとして、オピニオンリーダーとして活躍してほしいと思う。

春のはじめの、つれづれなる日記として

前田 正一 健康マネジメント研究科 公衆衛生・スポーツ健康科学専攻長/教員プロフィール

*SFCの革命者(アーカイブ):https://www.sfc.keio.ac.jp/vanguard/002959.html