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SFCの革命者(アーカイブ)
2010.10.11

現場と架橋し、総合的・学際的な視点から、医療における法や倫理の問題を考える。

SFCの革命者

現場と架橋し、総合的・学際的な視点から、医療における法や倫理の問題を考える。


前田 正一
健康マネジメント研究科准教授

医療技術の進歩は私たちに多大な利益をもたらす反面、医療現場に新たな倫理的・法的課題を生み出すことにもなる。そういった新たな課題に、現場の視点に基づき学際的な研究で立ち向かう前田正一准教授に話を聴いた。


医療技術の進歩がもたらした法的・倫理的課題への取り組み


SFCの革命者 前田正一准教授近年、医療技術は著しく進歩し、これまででは当然死亡していたような患者でも生存することができるようになりました。このように、医療技術の進歩は、今日、人々に多大な利益をもたらしています。しかし、その一方で、「延命医療」という言葉が使用されるなど、時には、進歩した医療は患者に利益をもたらしていないのではないかと考えられる場合や、患者自身が医療の実施を望まない場合が存在するようになりました。ここに、医療行為の差し控え・中止が許されるかどうかの検討が必要な状況が生まれるようになりました。医療行為の中止等によって患者が死亡した場合、その行為が、形式的には、殺人等の罪に該当する可能性があるため、報道機関による報道がなされるなど、先のことが社会問題となることがあります。また、時には、警察が介入することもあります。現在、医療現場においては、末期医療の問題のほか、生殖補助医療の問題など、医療技術の進歩により、新たに検討しなければならない倫理的・法的問題が多く存在するようになっています。私は、これまで、このような問題について検討する医療倫理や医事法に関する分野で教育・研究を行ってきました。



法学と医学


SFCの革命者 前田正一准教授学部学生時代、私は、法学部でアメリカ法(医事法)の演習に参加しました。その時、私は、先ほどの末期医療に関する法的・倫理的問題に関心を持ち、アメリカの裁判例や法律を分析して、日本における末期医療のあり方について検討しました。その後、大学院でも、同様のテーマで研究を進めました。その頃より、私は、医療における法や倫理の問題について真に有効な検討を進めるためには、法学を基礎とした学理的な検討だけではなく、現場の実態をつぶさに把握するとともに、医療システムに関する知識など社会医学に関する知識を備えることが不可欠であると考えるようになりました。また、この要請は、今後いっそう強まるのではないかと考えはじめました。このため、大学院医学研究科で学ぶことを決めました。医学研究科では、医学の基礎だけではなく、疫学・統計学や、研究デザインの設計方法など、自然科学研究における方法論について、かなり勉強をしました(正確に表現すれば、勉強をさせられました)。法学分野では、研究において、事物を数量的に検討する方法が用いられることは少ないこともあり、当時、私は、自然科学研究に関連する基礎知識を一切備えていませんでした。このような状況の中で、先ほどの教育を受けることは、私にとっては当初苦痛でした。しかし、研究を進めるにつれて、その意義を強く実感するようになっていきました。私は医学研究科と法学研究科の博士課程で学びましたが、いずれの大学院でも、課題に対し厳密な検討を進める上では、それを可能とする手法をしっかりと習得する必要があることをまず強く認識させられました。また、医療倫理などの課題については、一つの学問領域で検討するには限界があり、学際的・総合的な観点から検討を進めることが必要であり、さらに、研究者と実務家が密接に連携して、検討を進めることが重要であることを強く認識させられました。


全国的研究会の立ち上げ

SFCの革命者 前田正一准教授医学研究科の大学院生時代、私は、末期医療に関する問題以外にも、インフォームド・コンセントの問題など、他の医療倫理に関する問題や、医療安全管理・医療事故対応に関する問題にも取り組みました。大学院修了後、医学研究科で教員になりましたが、その直後から、大学院生教育を行うだけでなく、現場の医療関係者を対象とした専門職教育にも取り組みました。その一つに、大学の公開講座の制度を利用して行った、医療事故対応や臨床倫理問題への対応に関する人材養成講座があります。こうした講座は、今では少しずつ実施されるようになってきていますが、当時は、そのような状況にはありませんでした。この講座は、半年間、土曜日・日曜日を利用して、少人数教育(30人)を行うというものでしたが、毎回200名を超える方々から受講を希望する声が寄せられ、また、受講者の中には、大規模病院の管理者や、医学部の教授なども含まれていました。時代が変化しつつあることを、当時、強く感じたものでした。早くから高い問題意識を持たれた方々の思いを大切にしなければならないという考えと、この分野の教育研究の拠点を創成することが重要であるとの考えから、2005年、それまでの受講者の方々とともに、医療事故・紛争対応研究会を設立しました。この研究会は、現在、会員数が約1100人となり、日本の関連教育・研究の拠点のひとつとなっています。


問題解決能力の養成

SFCの革命者 前田正一准教授教員になって以降、私は、教育においては、受講者が関連知識と問題解決能力の双方を習得できるように、教育方法にも工夫を施してきました。また、学外組織の協力を得て、体験型の教育も進めてきました。例えば、医学研究科の大学院生を対象に、実際の法廷において、医療過誤の模擬裁判を実施しました。慶應義塾大学では、赴任して間もないため、実施できていないものが多くありますが、例えば、今年度は、参議院事務局の協力を得て模擬委員会・模擬国会を行いました。その際には、国会議事堂において、未成年者飲酒・喫煙禁止法の改正に関する立法案を素材に、模擬委員会を実施し、法案内容を倫理的・法的視点から検討したあと、模擬の国会審議・採決を行いました。



SFCの学生に望むこと


SFCの革命者 前田正一准教授SFCで行われる研究は、総合的・学際的な研究を要するものが少なくないものと思われます。また、実学としての性格も強く、実務と架橋して研究を進めることが重要なものも多いと思われます。このため、積極的に、他分野の人々と協同してほしいと思います。ただし、その際、教員ウェブページにも示しましたが、総合的・学際的検討を要する課題に取り組むからこそ、その際に軸とする学問の基礎をしっかりと習得してほしいと思っています。将来、研究者を目指す場合でも、また、実務家を目指す場合でも、取り組む対象の性格に違いはあるものの、探求の深さに違いはないことを認識してほしいと思います。学内にのみ目を向けるのではなく、他大学等、国内外における他の組織の人々の活動にも積極的に目を向け、他と比較して進んでいる部分についてはさらにそれを成長させ、遅れている部分についてはそれを真摯に受けとめ、対応することを通じて、将来、真に活躍する礎を築いてほしいと思います。それぞれの分野で、フロントランナーになり、オピニオンリーダーになることを期待しています。



前田正一(マエダ ショウイチ)

MAEDA, Shoichi

1972年、福岡県生まれ。九州大学大学院医学系研究科博士課程修了(博士 (医学))。九州大学大学院医学研究院助手、東京大学大学院医学系研究科生命・医療倫理人材養成ユニット特任講師、同医療安全管理学講座特任助教授・准教授(この間、東京大学医学部附属病院患者相談・臨床倫理センター副センター長兼務)などを経て、2009年、慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科准教授。専門分野は生命・医療倫理学(医事法、臨床倫理、研究倫理)、医療安全管理学。主な著訳書:『病院倫理委員会と倫理コンサルテーション』(監訳)勁草書房、『医療事故初期対応‐その理論と実践』医学書院、『インフォームド・コンセント』医学書院ほか。主な役職(2010年度):(社)医療系共用試験実施評価機構、(財)日本医療機能評価機構、臨床系医学会、医療機関等で、関連委員会委員等。


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→医療事故・紛争対応研究会

(掲載日:2010/10/11)

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