MENU
Magazine
2021.10.05

現在地の確認と進むべき方向|総合政策学部長 加茂 具樹

いま、私たちには何が必要か。それは、コロナの向こう側にある到達したい場所、実現したい姿を描くことであり、その姿を実現するためにどの様な手段があるのかを示すことだ。そのために、私たちは、ブックプロジェクトを立ち上げることにした。目的は、私たちの進むべき方向を確認するためである。

政策を考える。未来を考える学問を展開するSFCにおいて、総合政策学部は「政策を考える」ことを自らの教育・研究活動の中心においてきた。私たちは、この総合政策学という学問をつうじて、未来を見通す展望力、状況を捉える分析力、政策を設計する構想力、政策の意義を訴える説得力、政策を実施する実行力とともに、それらを総合する力を備えた学生を育てることに尽力してきた。

SFC、そして学部創設以来三〇年の実践をつうじて、私たちはある一つの考え方を共有している。それは、社会の秩序は変化するものであって、当然とされている価値観は流動する、ということだ。

私たちは、直面している問題の多くが既存の解決方法に懐疑的であり、常に新しい思考を要求している、と自覚すべきである。現実の世界に存在する問題を解決するための「政策を考える」学問は、常に変化が求められている。個々の先端的な学問領域に通暁しつつも、それを総合的に捉え直して、学際領域に踏み込もうとするSFCの学問が魅力的であるのは、この変化に適応しようとする考え方を備えているからである。

私たちはいま、この三〇年の変化のダイナミズムの線上にいる。この変化を前提としながら、これからの「政策を考える」という学問の道を示すために、ブックプロジェクトを企画した。その刊行にむけた活動は、私たちがSFCの総合政策学の今とこの先を世の中に打ち出すためのプラットフォームとなる。

なお、世の中に打ち出すのは総合政策学の今とこの先であって、総合政策学部のそれではない。このプロジェクトは、総合政策学部だけに閉じられたものではなく、環境情報学部、政策・メディア研究科、看護医療学部、健康マネジメント研究科に所属する教員の皆さんの力を借りて、すすめてゆく。

政策は社会(人間活動)の産物という側面があるのだとすれば、政策を考えるためには、政治、社会のリアリティーについての的確な理解をもつことが必要だ。そして、政策過程の現実、社会をかたちづくるアクターの思考や行動、制度の機能などに精通し、また、それにかかわる政策評価の困難性も理解してはじめて、私たちは的確な政策研究を追考できる。本ブックプロジェクトは、政策のリアリティーに接近するために必要な課題を複数設定し、それぞれを一つの巻として位置付ける。プロジェクトをつうじて五巻からなる叢書を編む。

私たちが取り組む「政策を考える」という学問は、常に変化が求められている。「変化」には、二つの形があるだろう。一つは、破壊して想像する、という変化だ。革命だ。もう一つは、徐々に、そして気が付いたら別のものになっている、という変化である。どのような変化であっても、契機があるはずだ。誰かが、その契機をつくったのかもしれない。しかし、「誰か」自身にも、またそのまわりの人にもよく分からない。だけれども、後日、ふり返ってみると、ああ、大きく変わったな、と感嘆するのだ。「変化」には、こうした二つの形態があるとすれば、いま立ち上げるブックプロジェクトは、後者であってほしい。

私たちはいったい何者なのか。何をしようとしているのか。それを私たち教員が力を合わせて書籍を編みながら確認し、その成果を私たちの学生に説明し、私たちを応援してくれる世の中に発信する。これは自らの場所を確認し、方向性を示すためには絶対に必要な過程だ。

土屋大洋前学部長の常任理事就任にともない、私の学部長としての任期は八月一日にはじまった。そして、いよいよ十月一日から二年間の任期がはじまる。これからの二年は、総合政策学部と湘南藤沢キャンパスが、コロナの向こう側にある新しい世界を、これからの五年、十五年、三〇年にわたって歩み抜くための基礎を固める時間にしたい。

加茂 具樹 総合政策学部長/教授 教員プロフィール