支えてくれる多くの人たちのために、世界女子相撲2連覇を目指す
長谷川 理央 Rio Hasegawa
学部:総合政策学部3年
出身校:青森県立木造高等学校(青森県)
高校で世界ジュニア優勝後、相撲と学業の両立を目指してSFCへ
私は兄の影響で子どものころから相撲を始め、小学校、中学、高校と女子相撲選手としての道を歩み続けてきました。高校1年生の時に世界ジュニア女子選手権で優勝をしますが、その後すぐにコロナ禍の影響で大会は次々と中止になります。出稽古もできず、毎日一人でトレーニングをすることしかできなくなってしまいました。それまでずっと相撲一色の人生を送ってきた私は、相撲が奪われてしまったことで、空っぽの人間になってしまったような気がしました。「これからどうすればよいのか」と自分の人生を改めて見つめ直した時に、「学業や人間関係などもっと世界を広げていかなくてはならない」と強く感じました。ただ、相撲をやめるという選択肢はなかったため、コロナ禍が終われば相撲ができ、学業とも両立できる環境を求めてSFCへの進学を決めました。2人の兄(長谷川大起、貴規)がともにSFC進学して相撲部の主将も務めていたため、大学生活や部活動について兄からいろいろと教えてもらえた点も大きいですね。
相撲部唯一の女子部員として精進を続け、世界大会優勝を果たす
SFCに入学後、私は103年の伝統ある慶應義塾体育会相撲部初の女子部員となりました。女子選手であっても「強くなりたい」という気持ちは男子部員と変わりません。普段は男子部員に交じって一緒に稽古を続け、切磋琢磨を続けました。1年生から国内外の大会に参加し、全日本女子相撲選手権大会や全国学生女子相撲選手権など国内の大会で優勝をすることができましたが、国際大会では3位止まりでした。「絶対に優勝したい」という思いで稽古に打ち込み、3年生となった2024年9月にポーランドで開催された世界相撲選手権大会で悲願の優勝を果たすことができました。相撲部に入部以来、非常に多くの人たちに支えていただき、応援していただいてきたため、より高みを目指し、勝ち続けていくことで、その想いに少しでも応えることができたのではないかと思います。
スポーツ科学の研究とともに、アスリートとしての知識と心構えも学ぶ
学業の面では、幅広い分野の授業を履修することで、新たな興味や関心を育むことができました。たとえば、私は音楽が好きなのですが、歌うことを「音楽を言語化すること」と捉えて考察する音楽の授業など、ものごとに対して今まで考えたことのないアプローチ方法を知ることができました。スポーツ選手としてのメンタルケアに馴染みがあったために履修した心理学関係の授業も興味深く、別の心理学の授業も履修したいと思えました。こんなふうに、興味を持った分野があれば、関連した授業を次々に履修できるカリキュラムは、これまであまり幅広い学問分野を知らなかった私にとってとてもありがたいです。
3年生からは水鳥寿思先生の研究会に入り、スポーツ科学を中心とした勉強に取り組んでいます。また、水島先生自身が体操選手としてアテネ五輪などにも出場するトップアスリートであり、現在体操男子日本代表監督を務めていることから、競技面だけではなく「トップアスリートとはどうあるべきか」というアスリートとしてのあり方についても教えていただいています。食事など日常的な体調管理をはじめSNSの使い方、応援していただく立場としての意識など、アスリートであり指導者でもある水島先生だからこそのお話は学ぶことが多く、普段のトレーニングや生活にも取り入れています。
女子相撲選手としての自身の経験を活かした研究に取り組んでみたい
自分自身の研究テーマについては、これから探していきたいと思っていますが、いくつか興味をもっているテーマがあります。
一つは世界各国の相撲の決まり手の調査です。選手個人の得意とする技などはありますが、体格などのちがいから国によって大まかなちがいがあるように感じるため、その部分に注目して分析をしてみるとおもしろいのではないかと思っています。
また、スポーツ選手の抱えるメンタル面での悩みやモチベーションの維持について、その男女差もふくめて興味があります。女子相撲は、小学生くらいまでは女子の競技者も多いのですが、そこから先はなかなか続きません。女子だけの道場もないため、競技を続けていくには男子に混じり、ほとんどの場合、一人でやっていかないといけないため、フィジカル面でもメンタル面でも厳しい現状があります。女子相撲の課題については、研究だけで簡単に解決できるものではないのですが、普及活動などさまざまなキャリアを積みながら、その課題解決にライフワークとして取り組んでいきたいと考えています。
SFCでの出会いで、自分の世界を大きく広げることができた
SFCに入学したきっかけの一つが、コロナ禍で自分の人生を見直し世界を広げたいと思ったことですが、選手生活と学問との両立によってその願いはしっかりと叶えることができました。
世界大会などに出場することで、新たな出会いもたくさんありました。また学内では、体育会で活躍する他の部の部員や交流することも多く、さまざまなスポーツをやってきた学生とお互いに意見交換ができるのは、SFCだからこその経験です。多種多様なスポーツに共通する点もあれば異なる点もありとても興味を惹かれました。式典などで出会うOBOGの方も年齢にかかわらず一人の人間としてリスペクトを持って他者を受け入れる精神を持った方々で、そうした方とお話することで選手として、さらに精進していきたいという思いを新たにすることができました。
一方、学部で出会った友人の中には、女子相撲選手としての私を知らない人もいます。授業のことや勉強のことだけなく、好きな音楽の話やおいしい食べ物の話で盛り上がることができる友人との出会いも、またかけがえのないものだと感じます。
今後も変わらない目標は「世界一強くありたい」ということ
今後の目標は、まずは世界大会での優勝です。昨年、初の優勝を手にすることができましたが、世界一をとったからといって、終わりではありません。選手である間は、世界一強くありたいと思っているので、大会を終えた次の日から、次の挑戦が始まります。日々、支え、応援してくれる人たちに優勝の報告ができるように、一所懸命取り組んでいきます。
また、昨年は世界大会に焦点を当てていたため、出場しなかった国内の試合にも出場したいと思っています。世界一というタイトルは関係ありません。勝負の世界は毎試合勝ち負けがあります。どちらに転んでも無駄な試合はなく、貴重な経験になります。取りこぼしのないようにがんばっていきたいです。
大相撲というプロの世界がある男子相撲に対して、女子相撲は実業団に入る以外は趣味として続けるほかなく、社会人になってからも活躍できる場は非常に限られています。今は選手として全力を尽くすことが第一なので卒業後についてはまだ具体的に考えていませんが、選手としても学生としても恵まれたSFCの環境を活かし、今後のキャリアに役立つ知識や人とのつながりを築いていきたいと思っています。