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データに基づく気象学の研究で、航空機の安全な運航に貢献したい

データに基づく気象学の研究で、航空機の安全な運航に貢献したい

久松 海人 Kaito Hisamatsu
学部:総合政策学部3年
出身校:桐蔭学園高等学校(神奈川県)

ORFをきっかけに、SFCの幅広い専門分野を持つ研究会に惹かれる

高校1年生の時に、高校の部活のOBでSFCに進学した先輩に誘われて、SFCが研究活動成果を社会に公開する場として開催している「SFC Open Research Forum(ORF)」に参加しました。東京ミッドタウン(※参加当時の会場)という都心の大きな会場にいくつものブースが設けられ、そこで最先端の研究活動成果がポスター発表やトークセッションとして繰り広げられているさまに、とにかく胸がわくわくしたことを覚えています。当時の自分にとって難解な内容の発表も多くありましたが、大学で学ぶことができる学問分野の広さを体感することができました。また、ドラムを用いたライブパフォーマンスなどのユニークな発表を見て、「大学って楽しそうだ」という思いを強くしました。
当時の私が興味を持っていた分野は大きく3つに分かれていました。その3つとは「飛行機(航空宇宙工学、気象)」「音楽/楽器(音楽脳神経科学)」「メディア(映像制作)」です。そのため、進路選択のための学部選びが難しく、受験では絞りきれないままいくつかの大学の「理工系」「情報メディア系」「人文系」学部とSFCを受けました。結果、複数の大学から合格をいただくことが出来ました。その中から最終的にSFCを選んだ理由は、未来に選択肢を残しておきたかったからです。学びながら専攻する分野を決めることができる点や、1年生から所属できることができる研究会の幅広さ、必要に応じて分野の足し算や掛け算ができる履修システムなどが揃ったSFCは、さまざまな学問分野への興味を持っていた自分にとって非常に魅力的でした。

自分自身の得意不得意と興味の対象を見極め、気象学の研究へ

1年生の1年間は、もとから興味があった理工系や音楽、メディア分野に加えて、おもしろそうだと感じた政治分野、今後どんな分野を研究するにも必須となりそうなデータサイエンスなどさまざまな分野の授業を履修しました。そして、自分は現象を数値に落とし込んだりデータを解析したりすることが向いていると判断し、それらの手法を用いて、航空気象分野の研究ができる宮本佳明先生の気象学研究会に入ることを決めました。
宮本研の研究内容は幅広く、先輩の研究も、台風や集中豪雨などの気象現象のメカニズムを探求する基礎研究から、地球温暖化や大気汚染、ヒートアイランド現象などの環境問題の原因の理解や、生活にかかわる各種産業、防災、都市開発などに活かす応用研究まで、多種多様でした。私が興味を持っている航空機に関わる研究にしても、たくさんのアプローチ方法があったため、まずは先輩のテーマを真似て研究のやり方を身につけました。そして、多くの気象データを見ることで、自分の研究したいテーマと出会うことができました。

空港の霧の発生要因を解明する研究で、山岸学生支援プロジェクトに採択

現在取り組んでいる研究テーマは、「高松空港における霧の発生要因の解明」です。航空会社は安全な運航のために、離着陸を行う空港の気象条件によって、便の欠航や遅延の判断をします。なかでも霧は、発生すると視程(大気の混濁を表す尺度の一つ。肉眼によって目標を見分けることができる最大距離のことで0から9までの階級がある)が低下して、安全な離着陸ができなくなります。香川県の高松空港は、降雨や濃霧の影響を受けやすい高台に位置しており、多い年では年間90便以上が濃霧により欠航しています。そこで、高松空港で発生する霧の種類と発生時の気象場(気温や風などが周囲に影響を与えている状況)を明らかにすることを目的とする研究に取り組むことにしたのです。研究では、空港で定時観測されている気象データ(気温、風向、風速、視程)に加えて、空港周辺のアメダスで観測されたデータを用いて時系列分析を行い、霧が発生しやすい時間帯や持続時間の傾向を明らかにします。さらに、空港周辺の3次元数値予報データを用いて、霧発生時の気象場の特徴も明らかにすることを目指しています。
この研究は、2024年春にSFCの山岸学生プロジェクト支援制度に採択されました。山岸学生プロジェクト支援制度は、世の中にインパクトをもたらす研究活動を支援する、学部生を対象とした研究助成制度です。大学院生を対象とした助成は多くありますが、学部生を対象にした助成は珍しく、この助成を受けられたことで金銭的に困ることなく研究ができたことはとてもありがたかったです。また、厳正な審査を経たことで自分の研究内容に自信を持つと同時に、「採択いただき、支援をいただいているのだから」という良い意味での緊張感を持って、モチベーション高く研究に取り組むことができています。

自分だからこそ生み出せる価値を世の中に提供できる人を目指す

今後については、現在の霧の研究で一定の成果を出すことを目指しています。こうした予測については100%の正解を出すことはできません。けれど、霧が発生する条件----今回の高松空港であれば東寄りの風が深く関わっているのですが----を明らかにすることで、例えば予測のためのモデルなどを作成することが可能になります。今よりも霧が発生する時間帯や持続時間などが正確に予測できるようになれば、事前に航空機の運航計画を立てやすくなり、欠航や引き返しによる経済的な損失や利用者の不自由を解消することに繋がります。分からないことや知られていないことを自分の手で明らかにしていく研究は楽しく、社会人になってからはなかなか出来ないことだと思います。だからこそ、大学で学び、研究する環境がある今の期間を大切にしたいと考えています。
現在、航空業界を中心とした就職活動を行いつつ、まだ取り組んでみたい研究テーマもあり大学院進学も検討中です。就職活動では、気象学の知見を活かせる運航管理者や空港の管制官のほかに、パイロットを目指す道も視野に入れています。どのような仕事に就くのか、はたまた大学院に進学するのかは、まだ確定していませんが、いずれにしても自分だからこそ生み出せる価値を提供できる人になりたいと考えています。

気象学は身近でおもしろく、社会的なニーズも高い学問

最後に、私が研究している気象学のおもしろさについて少し。気象学といえば、気象予報士による天気予報のイメージがわかりやすいですが、先に宮本研の研究内容として触れたように、気象学は地球規模の環境問題から、交通・運輸をはじめとする各種産業、防災や都市計画といった政策策定など、社会に幅広く関わっており、私たちが生きていくうえで欠かせない学問です。さらに世界的に台風や豪雨などの気象災害も増えており、今後ますます注目が高まる分野です。
誰しも天気予報を見たことはあると思いますが、気象学を学ぶと「なぜ翌日が晴れだとわかるのか」「何時間後に雨ということがわかるのか」といった、予報の背景がわかるようになります。また、空を見上げて雲の動きを眺めるだけで、上空で起こっているさまざまな現象に想いを馳せることができます。私はそうした世界への新しい視点を持つことを、とても楽しいと思いますし、人生が豊かになると感じています。ぜひ、多くの人に、気象の魅力を知ってほしいと思います。