アフリカでの大豆ミート普及に向けたファーストステップ
横田 千花 Chihana Yokota
学部:総合政策学部2年
出身校:東京都立国際高等学校(神奈川県)
なぜアフリカに大豆ミートを普及させる必要があるのか
私は、現在、東アフリカ・ケニアに大豆ミートを普及するプロジェクトに取り組んでいます。大豆ミート市場の中心である先進国では、ほとんどの家庭で当たり前に肉を食べることができます。また、環境保護などの社会的価値が実際の消費行動につながりにくい日本市場では、食べ慣れている肉ではなく新たな食品である大豆ミートを選んでもらうことは非常にハードルが高いことを高校時代からの活動を通して痛感しました。
そんな中で、大学で持続可能な途上国支援について研究してきた友人と出会い、途上国では肉が非常に高価で頻繁には食べられないという現状を知りました。そして、そんな途上国だからこそ「肉より安価で肉っぽい乾燥大豆ミート」の需要がより見込めるのではないかと考えるようになりました。
私が最初のフィールドとして選んだケニアでは、安価な炭水化物に依存した食生活による栄養不良や経口感染症が深刻な課題です。それに対し乾燥大豆ミートは、不足した栄養素を豊富に含み、常温で長期保存が可能であるため、普及によりそれらの課題を改善することが可能です。このアイデアを基に、貧困削減というテーマから持続可能な開発へと視点を広げるBOP3.0のビジネスモデルを理想とした事業展開を模索し始めました。アフリカは今後最も畜肉消費量が増える地域であるというデータもあり、すでに環境に大きな負荷をかけている畜産業がより深刻な状況を迎える前に、大豆ミートという選択肢が当たり前にある社会をつくっていきたいと考えています。
高校時代に出会った「大豆ミート」という研究テーマ
そもそも私が大豆ミートというテーマと出会ったのは、高校1年生の時です。
幼馴染に誘われて「マイプロジェクトアワード」という、高校生が自分の取り組んできたプロジェクトについて発表する大会に参加しました。ただ頼まれてメンバーになっていた私は、幼馴染が取り組んでいたプロジェクトにきちんと向き合っていませんでした。ところが全国大会の当日、幼馴染が急遽参加できなくなるハプニングがあり、私が1人で発表することに。結果は当然ボロボロで、真剣に向き合っていたら答えられるはずの質問にも答えることができず、そんな自分に対して恥ずかしくて不甲斐ない気持ちになりました。同時に、大会で自分のテーマを持って行動する同世代の参加者に強く心を打たれました。そして、「こんな世界があったのか。私もこんなふうに自分のテーマを持って、熱く想いを語れる人になりたい」と強く思い、自分なりのテーマ探しが始まりました。
そこからアンテナを張って生活する中で、見つけたのが「環境に優しい食の選択肢としての大豆ミートの普及」というテーマです。
肉に代わるタンパク質源としての大豆ミートは、地球環境保全や人類の健康に貢献する食品として、アメリカやヨーロッパなどで少しずつ広がっています。私はぜひ日本でも大豆ミートを普及させたいと考え、日本の学校給食への導入を目指した政策提言や小学校での出張授業を行い、フードテック官民協議会での議論などにも参加しました。
SFC入学で他分野の研究とコラボし、大豆ミート研究は新たな展開へ
高校時代から続けていた日本での大豆ミート普及が思うように進まないなか、SFC入学後、仲良くなった他分野の友人と大豆ミートと途上国支援というお互いの研究テーマについて何気なく話す機会がありました。そこで、ふと大豆ミートをアフリカで生産し普及させることで社会的に大きなインパクトをあたえられるのではないかというアイデアが浮かんだのです。そこから友人とともに、アフリカという遠く離れた地でどのような形での普及が実現可能なのかを一から検討してきました。
当初はアフリカで実際に大豆ミートを製造・販売するという構想を描いていましたが、製造インフラや現地雇用、資金面など、多くの壁にぶつかりました。そこでまず「自分自身が今貢献できること」に焦点を当て、日本で大豆ミートを販売し1つ売れたらケニアに1つ寄付するというone for oneビジネスの形から取り組むことにしました。このビジネスでは、ポップアップとして実際に日本で大豆ミート製品を販売し、その利益を現地のスラムで食糧支援を行う一般社団法人と共同して、ケニアでの給食支援や食料配布のために寄付してもらう予定です。
ケニアを訪れ、現地の子どもたちから力をもらった
ポップアップ実施に先立って2024年9月には実際にケニアへ渡航し、現地での市場調査と大規模なモニター調査を行ってきました。初めて降り立った瞬間は、日本とまったく異なる街の雰囲気や人々の様子に圧倒され、正直足がすくんでしまいました。しかし、ケニアまで来て躊躇しているわけにはいきません。友人と「とにかく大豆ミートを試食してもらう機会をつくろう」と話し合い、思いつくかぎりの行動を起こしました。まず現地の一般社団法人の協力を得て、アフリカ最大のキベラスラムや孤児院、農村部の小学校などさまざまな場所へ訪問し、大豆ミートを使った料理を鍋いっぱいつくって子どもたちに食べてもらいました。日本で大豆ミートの試食をしてもらうと「肉の方がおいしい」とよく言われるのですが、ケニアの子どもたちは「おいしい」と笑顔で食べてくれました。そのほかにも、オンラインコミュニティで知り合ったケニアの大学生に会って、現地の案内もしてもらいました。結果、アフリカにおける大豆ミートの価値とビジネスモデルについて再考する材料を得ることができ、今後に向けてたくさんの人と知り合うことができました。何より子どもたちの笑顔を思い出すと、絶対にこのプロジェクトを諦めないという気持ちが湧いてきます。
SFCだから、プロジェクトを止めずに進めていける
私は現在2年生なので、まずは卒業までの2年間、自分たちにできる新たな可能性を探しながら、現在進行中のone for oneビジネスのポップアップなどを一つ一つ成功させていきたいです。高校時代から始めた大豆ミートのプロジェクトをここまで進化させることができたのはSFCの環境や支援体制のおかげです。
最も大きな転機は、現在共同研究をしている友人に出会えたことです。私は「ソーシャルセクターとヒューマンサービスの社会学」をテーマとする宮垣元研究会に所属していますが、友人は「持続可能な途上国支援」というテーマを持っており、異なる研究会に所属しています。一つのキャンパスに多種多様な研究テーマを持った人がいて、コラボレーションを生み新たな研究に取り組むことできるというのはSFCならではだと思います。
また、ケニアに渡航する際には学部生でも応募できるSFCの研究助成に応募し採択していただきました。SFCではキャンパス独自の多種多様な助成制度があり、学生の研究活動に対する支援が非常に充実しています。
憧れのSFCでの学びを最大限活用し、有意義なものにしたいという想いが研究のモチベーションにもなっているとも思っています。