MENU

SFCでの学びとの出会いが、「痛み」に気づくロボット研究へ

SFCでの学びとの出会いが、「痛み」に気づくロボット研究へ

島田 愛里 Airi Shimada
学部:総合政策学部3年
出身校:横浜雙葉高等学校(神奈川県)

海外の大学のような学際的な学びに憧れSFCへ

高校1年生の夏休みに、イェール大学のサマープログラムに参加する機会がありました。日本からの参加者は10名ほどで、イェール大学の現役の教授からオールイングリッシュで学ぶ幅広い学問を融合した授業はとても刺激的でしたし、自身の研究に没頭する研究者の姿を見て「研究って面白い!」という憧れを持ちました。
そうした経験があったため、「分野横断で学べること」を条件にして志望大学を探し、SFCを見つけました。ウェブサイトで紹介されている授業はとても魅力的でしたし、1、2年生のうちからユニークな研究や学びを楽しむ先輩方の姿にも惹かれ、どうしてもSFCで学びたいと考えて入学を決めました。

分野横断的に履修した授業で、「ロボット」という研究分野と出会う

SFCに入学すると文理を問わず履修してみたい授業がいくつもありました。そこで、建築や生物、ヘルスケアなどさまざまな分野の授業を単位数の上限まで受講していった結果、自分の興味の方向性として「コミュニケーション」や「ヘルスケア」というキーワードが浮かび上がってきました。さらに、高汐一紀先生の授業で人間のパートナーやバディとしての役割を果たす対話ロボットの存在を知ったことが、私の研究分野を決定づけました。
その理由は高校時代から抱えていたある思いからです。ボランティアで老人ホームを訪れた際に出会った高齢者の方々は、高校生の私に「体のあちこちが痛いんだけど、言えないんだよね」という悩みを打ち明けてくれました。忙しい介助者への遠慮や何度も訴えることで面倒臭がられるのではないかという人間関係悪化への不安、我慢できる痛みを伝えてよいのかどうかというためらいなど原因は人それぞれでしたが、多くの方が痛みを伝えるのが難しいという悩みを抱えていることに大きなショックを受けました。この問題をなんとかして解決したいと思いつつ、具体的な解決方法は見つけられていませんでした。高汐先生の授業をきっかけに「対話ロボットであれば、高齢者が痛みを伝えづらいという問題を解決できるかもしれない!」と抱えていた問題意識と学びが結びつき、1年生で高汐研究会に飛び込みました。

ゼロからの対話ロボット研究を可能にしたSFCの自由な学び

「高齢者が痛みを伝えづらいという問題を解決する対話ロボットをつくりたい」という目標は明確であったものの、私はロボットについての知見がまったくありませんでした。そのため、どこから研究に着手すればよいのかわからず、すべてが手探りでのスタート。プログラミングやデータサイエンスといった授業を履修することでロボット開発や研究に必要な実践的な知識やスキルを身につけていくことができたのは、自由度の高いSFCのカリキュラムのおかげです。人間との対話に必要な心理学や認知科学、実証に必要なヘルスケアの知識なども授業で補い、自分の学びをデザインしていきました。
基本的な知識が身につくことで、目標とするシステムを実装するための発想が生まれ、次に得るべき知識へとつながります。現在は、(フィールドワークを通して知見を得た、)医療現場での対話戦略を活かした痛みを伝えやすい対話プログラムを開発するだけでなく、対話ロボットがパートナーとしてともに暮らし、毎日の会話の中で見守りを行いながら、さまざまなセンシングを通して「いつもとの違い」を検知し、大きな異変が生じた場合には家族や、病院に伝えるシステムの構築を進めています。具体的には、日常会話の中での痛みに関連する発言や、患部をさするなどの仕草や動作に着目して違和感を検知し、痛みについて質問して記録する対話システムです。(SFC独自の研究助成制度である)山岸学生プロジェクト支援制度に採択していただき、研究助成金をいただきながら充実した研究をすることができています。

社会実装に向けて大きな支えとなるフィールドワーク

研究を進めるにあたり、鳥取県日南町でフィールドワークを行っています。日南町とのご縁は、同町を会場にして2泊3日で開催された未来構想キャンプに私がSA(スチューデント・アシスタント)として参加したことがきっかけです。
研究室で良かれと思ってやっていたことが実際の現場に行くとそうでないこともあり、気づきや新たな発見が多いフィールドワークに取り組むことができるのは、常に研究と社会の繋がりを意識することができる非常にありがたい環境です。これまで1年間に5回のペースで現地に滞在し、行政担当者や医療関係者の方々にご協力いただき、訪問看護に同行させていただいたり、対話システムへのアドバイスをいただいたりと、社会実装に向けて対話システムの改善をくり返しています。
2025年1月には、日南病院のリハビリ科に通院する患者さんに、実装した対話ロボットを用いて対話を行ってもらう実証実験を行いました。この実証実験では、高齢者の方がロボットに対して「自分の痛みに気づいて共感してくれる存在」という親しみを覚えた点が印象的でした。実証実験後に行った理学療法士に対する調査においても、被験者の普段の様子と比較して自発的に痛みについて話すことができているという評価をいただくことができました。短時間の対話にも関わらず「持ち帰りたい」と話してくださる方も多く、、ユーザの痛みに「気づく」という機能が、会話の自然さや共感性を感じさせ、心理的なハードルを下げて、「痛み」を打ち明ける行動につながるのではないかという今後の研究の可能性を感じました また、フィールドワークで多くの人々の声を聞くことは、研究のモチベーションも高めてくれます。まだ開発中にも関わらず自分がつくったものを喜んでくれる人がいることには大きなやりがいを感じます。

学部・大学院修士4年一貫教育プログラムで将来の可能性を広げる

私はSFCの学部・大学院修士4年一貫教育プログラムという、4年間で総合政策学部の学士号と、大学院政策・メディア研究科の修士号の2つの学位を取得できるプログラムに参加しているため、今年で学士課程を終え、来年1年間は大学院で研究を続けます。早期に修士課程まで終えることで、海外の大学院への進学など将来の可能性が広がるのがこのプログラムの利点だと思います。必要単位数は増えますが、私は学生団体の幹部として活動をしたり、弓道サークルに入ったり、ビジネスコンテストに出場したり、と授業以外の学校生活も十分に楽しむことができましたし、何より1年生から研究会に参加し密度の濃い学びを得ることができました。
現在の目標はSFCを卒業するまでに、対話ロボットのシステムを日南町に社会実装することです。卒業後の進路についてはまだ決めていませんが、SFCで学んだ実践的な学びの姿勢や、さまざまな活動を通して経験させていただいた多くのことを活かして、社会に大きなインパクトを与えて貢献できる人になりたいと考えています。卒業しても、学びを止めない人生にしたいです。