経験を糧に、データの精度を高めた意欲的な研究へ
関 碧生 Aoi Seki
学部:環境情報学部3年
出身校:関西学院高等部(兵庫県)
新たな環境でより高みを目指すために地元関西を離れて進学
私は中学受験で中高一貫校に入りました。高等部に内部進学後、そのまま附属大学に進む生徒が大半という状況で、新しい環境でより高みを目指して学びたいという気持ちが芽生え、首都圏の大学に進学することを決めました。
その時点ではまだ自分が学びたいことを絞りきれていなかったため、選択肢の多いSFCを選びました。
音楽をきっかけに、新しい分野への興味が広がる
入学後は専門を決めるために、気になった授業をできる限り受けましたが、幼少期からピアノを習っていたこともあり、その中でも「音楽と脳」という授業に強く興味を惹かれました。履修前は「脳科学・神経科学」というと医学の専門知識が必要なイメージがあったのですが、「音楽」という入り口が自分にはぴったりで、ピアノを弾く時の複雑な指の動きと脳の関係性など、自分の経験と照らし合わせながら興味深く学ぶことができました。
この授業をきっかけに興味が派生して、神経科学を学ぶために2年生の春に牛山潤一研究会に入りました。ただ、専門を決めてからも多方面への興味が尽きず、政治学や経済学、心理学、哲学、宇宙学といった授業を受けるために日吉キャンパスにまで通ったのは、我ながら変わり者だと思います。
研究テーマの選定が最初の高い壁に
牛山研では、まずはチュートリアルとして先生から与えられた課題をもとに、実験の行い方や解析の方法を学び、半年後には本格的に自分の研究を1人で始めることになりました。個人研究を始めた頃は、大海に投げ出された気分で、何をテーマにしたらよいのかわからず、途方に暮れました。そもそも、大学入学前には神経科学に触れたことがなかったため、神経科学の分野で何が解明されていて、何が未解明であるかもわからない、それを調べる方法もわからないといった絶望的な状態でした。
悩みながら手探りで決めたテーマは、「脳領域間の同期性が反応時間に与える影響」。研究として価値のあるものにできるかどうか迷いながら進めていたところ、非常に興味深い現象を発見し、一気に研究に熱が入りました。その後、1年間かけてある程度かたちになったため、学会で発表することができました。初めての機会で緊張しましたが、他の研究者の方々から声をかけていただき、とても嬉しかったことを覚えています。本当に貴重な経験でした。
ノイズの影響で、1年間かけた研究が中止に
しかし、学会発表後、研究に使った脳波データの一部にノイズが含まれていることが判明しました。脳波データは非常にノイズが入りやすいため、丁寧かつ誠実に計測、解析を行ってきましたが、処理しきれないノイズが残ってしまっていたのです。そのため、無念ではありましたが研究を中止せざるを得ませんでした。
しばらくは深く落ち込みました。学会発表を行うことができたこと、そして何より興味深い現象を発見できたことが研究を行う上での自信となっていましたが、これで振り出しに戻った気分です。「まだ何も成せていない」と焦りを覚えていましたが、研究室の先輩や先生の助言を受けて、研究テーマを変えることを決意。現在は、「脳波の位相に依存した反応メカニズム」というテーマで研究を行っています。このような判断ができたのは、卒業まであと1年以上あるという時間的猶予のおかげだと思います。
また、前回の経験を学びに変えて、ノイズが入った原因を突き止め、それをクリアにするプログラムを組み、問題を解消することができました。
研究中止はショックでしたが、結果的に技術を高めることができ、より意欲的に研究に取り組めるようになったのは、自分なりの大きな進歩だったと思います。
企業での活動を通して、研究に対する価値観が変化
大学での研究と並行して、株式会社SandBoxにてJunior Researcherとしての活動を行っています。同社の事業内容は、企業や応用脳科学コンソーシアム等の業界団体から依頼を受けて、最先端の再現性が高いサイエンスに基づき既存事業の収益改善や感性に関係した新規事業創出を支援することです。私はそこで、顧客の要望を達成できるよう、再現性の高い先行研究を参考にしつつ、最適な実験プロトコルで脳データ、アンケート、行動実験を行い、得られたデータを可視化、定量化する。そして、顧客社内での内製化までを一貫して支援する役割を担当しています。作業内容は大学の研究で行うことと近いですが、個人の研究とは異なり、私が担当した業務内容がそのまま事業に影響を与えるため、いつも以上に緊張し責任感を持って作業に取り組んでいます。
また、活動を通して、脳科学分野が様々な形で社会に貢献することができると気付き、自分の研究にも新たな可能性を感じることができました。
迷い思い悩む時間も、貴重な経験
私は以前から、自分が納得できる答えを見つけ出せない時間が辛く、考えることや言語化することが苦手でした。しかし、研究室に所属して以降、そのままの自分では力及ばないことを知ります。それは、研究とは考え続けることだからです。「価値のある研究とは何か」「観測した現象が何を意味しているのか」「この研究が社会にどのような変革をもたらすか」、常に考え続けなければなりません。そして、ノイズに悩んだあの日々は、私にとって考える力を鍛錬する良い機会でした。私は、研究を通して、少しずつ成長できていることを実感しています。さて、現在私はこの先の進路を決める大切な時期に差し掛かっています。非常に「悩む」時期ですね。しかし、考えることの大切さを学んだ私は、苦しみながらもたくさん考え続けたいと思っています。同様に、もし今、進路選択に迷っている高校生がいれば、迷うことも悩むことも大切な経験であると、そして答えが見つからないからといって自分を責める必要はないのだと伝えてあげたいですね。