
日本への憧れを胸に、イタリアの大学からロンドン、そして日本へ
私はイタリアの小さな町で生まれ育ちました。私が子どものころ、イタリアのテレビで日本の『キャプテン翼』というサッカーアニメを放送しており、そのアニメをきっかけに日本文化に興味をもち、日本への憧れを抱くようになりました。いつかは日本に住んでみたいという思いはその頃から抱いていました。
ロンドン大学では国際関係を専攻してEU国家の一員としてEUの対外関係を研究しつつ、日本への強い興味と関心から、日本との関係に焦点を当てるようになりました。また、日本語コースを受講して、日本語や日本文化についても学びました。ミラノ大学を卒業後、イギリスのロンドンでThe London School of Economics and Political Science (LSE)という社会科学分野を専門とする大学で学び、EU政治の研究で修士号を取得。また、LSEでも引き続き日本語や日本文化を学ぶとともに、日本人のクラスメイトとEUと日本の政治について意見交換をすることで、日本政治への新たな視点を得ることができました。
また、在学中の2018年に日本の外務省が推進する対日理解促進交流プログラムである「MIRAI」に「政治と安全保障」の枠組みで参加。生まれて初めて念願の日本を訪れ、東京と広島で、日本の歴史と文化を学ぶとともに、外務省の代表者や慶應義塾大学の国際関係学の教授と話をする機会を得ました。
この経験を機に、EUと日本の協力関係の研究でキャリアを築きたいと考えるようになり、日本の文部科学省の国費外国人留学制度(MEXT奨学金)に応募。特別研究生として来日し、日本語の勉強をしながら準備を進め、2023年4月から政策・メディア研究科に入学しました。
EUと日本の協力関係の研究者としてさらなる一歩を踏み出すとともに、日本に住みたいという子どもの頃からの夢をついに叶えることができた喜びは、非常に大きなものでした。
EUと日本の外交政策と協力関係について、日本側から検証をはかる
SFCでの私の研究テーマは、大きな枠組みでいうと「日欧外交政策関係や協力」で、「日本の自由で開かれたインド太平洋」と「EUのインド太平洋戦略」の関係に関する研究です。
「日本の自由で開かれたインド太平洋」とは、アフリカとアジア2つの大陸と、インド洋と太平洋という2つの大洋を一体としてとらえ、インド太平洋地域全体の平和と繁栄を保障するため、ルールに基づく国際秩序の確保を通じ、自由で開かれたインド太平洋を「国際公共財」として発展させるという構想で、2016年8 月に当時の安倍総理が第6回アフリカ開発会議で行った基調演説が端緒となっています。
一方の「EUのインド太平洋戦略」は2021年9月にEUが発表した「インド太平洋戦略に関する共同コミュニケーション」のことで、自由、民主主義、法の支配など、日本と基本的な価値観を共有しており、さまざまな分野で協力を進めるパートナー国として、日本にも言及しています。
研究では、この日本の構想がどうやってEUの規範に影響を与えたのかというリサーチクエスチョンに集中しています。日本とEUは地理的に遠く離れていますが、そうした遠方の国々がどのように外交政策関係を築いていったのかという点に、強く興味を惹かれました。私は以前から、基本的価値観や原則を共有するEUと日本が、インド太平洋戦略について協力関係を築くことができると考えており、その読み通りに進んだこの協力関係について、公式に発表された文書の舞台裏での動きをくわしく知りたいと思ったのです。
研究では、イタリアやイギリスなど日本以外の国では調査することができない、日本側の政策関連資料、日本語の学術研究などを読み解くとともに、EUの「インド太平洋戦略」の関係者に直接インタビューすることで事実関係の確認をとり、政策決定フローを明らかにしていきました。
今回の研究で、日本とEUの政策の基本的な動き方を知ることができたので、それをもとに次の研究につなげていきたいと思っています。
リサーチアシスタントや学生インターンとしての活動も貴重な経験に
SFCでは鶴岡路人准教授(※2025年4月より教授)の「概念構築(GR)」や田中浩一郎教授の「グローバル・ガバナンス研究Global Governance Viewpoints」の授業を受け、自らの研究テーマに取り組むほか、研究の一環として慶應戦略構想センター(KCS)のリサーチアシスタントを務めました。また、民間・独立のシンクタンクである地経学研究所(IOG)の学生インターンとして、いくつかのプロジェクトに参加してきました。国際関係を学ぶうえで、こうした社会とつながりのある研究活動に関わることは、貴重な経験となりました。
国際関係は、世界の多くの国々の経済状況や安全保障、貿易、政治的主導者、民族、宗教、イデオロギーなど、表面化しているものだけでなく内面化しているものや水面下にあるものも含めて、非常の多くの要因が絡み合って刻々と変化してきます。その複雑さや困難さが、私にとって興味深く、おもしろく、研究に取り組むことの意義にもなっています。
卒業はIOGとともに仕事をすることが決まっています。IOGでは世の中に必要とされているテーマの調査や分析が主体となるため、新たな知見を得る機会として積極的に取り組んでいきたいと思っています。
学びたい学問分野との出会いが、研究者としての道をひらき、夢を叶えてくれた
これからSFCで学ぶことを考えている皆さんへ、私の立場からお伝えできるのは、人は学びたいことを学ぶべきだということです。私は自分が興味のないことを勉強させられると少し悲しくなります。何かを根気強く学ぶことは大切かもしれませんが、もしやりたいことがあるのであれば、そこに全力で取り組む方がよいと思います。全力で取り組めば、その分野で次のステップへと進むことができ、さらにキャリアを積むことができます。
私はイタリアの高校に通っていたころ、あまりよい成績ではありませんでした。地理、政治、英語には興味があったのですが、何が好きかわからず、また、興味を持てない分野を学ぼうという意欲を持つことができなかったためです。日本は好きでしたが日本の大学や大学院に通うことはもちろん、研究者になることなど想像もしませんでした。けれど、興味のあった地理、政治、英語から派生して国際政治という学問分野と出会ったことがきっかけで、一気に学びたいという意欲に火がつきました。そして、キャリアを重ね、日本に住むという夢も叶えることができました。今は、研究がおもしろくて仕方がなく、朝起きるとすぐに研究に取り組みたくなります。
ぜひ皆さんの学びたいことを見つけてください。そうすれば、きっと人生の新たな可能性が広がり、次々と扉を開いていくことができると思います。