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2026.03.10

看護学教育モデル・コア・カリキュラムへの対応と今後の展望|看護医療学部長 永田 智子

現在、看護医療学部の教員は、一つのエクセルファイルを前にして深く頭を抱えています。具体的に申し上げれば、昨年度末に文部科学省から改訂版が発表された「看護学教育モデル・コア・カリキュラム」、いわゆる「モデルコアカリ」を本学部においても導入する必要があり、その第一段階として、現在行っている教育内容の点検作業に着手しているのですが、これが想像以上の難物だからです。

日本の看護学教育には、1949年に公布された「保健師助産師看護師学校養成所指定規則」に基づき、「コンテンツ基盤型教育」として実施されてきた長い歴史があります。しかし、大学での看護教育の普及や、医療提供体制の急激な変化に伴い、多様な現場で状況に応じた適切な判断・対応ができる「看護実践能力」が強く求められるようになりました。こうした流れを受け、2017年には最初の看護学教育モデル・コア・カリキュラムが策定され、指定規則に定められた全ての教育内容がそこに内包される形となりました。

さらに、科学技術の進展や複雑化する社会情勢に鑑み、看護学教育が目指すべき人材像も進化を遂げています。自ら課題を設定し、論理的思考力やグローバルなコミュニケーション能力を駆使して新たな価値やビジョンを創造し、積極的に社会を改善していく資質・能力を備えた人材が求められるようになったのです。また、高等教育全体において「学修者本位の教育」への転換が提言され、個々の学生の学修成果を可視化することが不可欠となりました。これにより、従来のコンテンツ基盤型教育から、能力の到達度を重視する「コンピテンシー基盤型教育」への転換が必須となったことは、皆様もご存じの通りです。

このような大きな潮流を踏まえ、2025年にコンピテンシー基盤型の新たなモデル・コア・カリキュラムが発表されました。ここでは、看護学士課程の学生に求められる知識、スキル、態度・価値観といったコンピテンシーが統合的に整理されています。さらにアウトカム評価として、卒業時点、およびその手前の臨地実習開始時点での到達点が明示されました。将来的には、臨地実習をより有意義で実践的なものとするべく、学生がより主体的に関わる「参加型臨地実習」に向けた道筋も提示されています。

さて、このように概観すれば、モデルコアカリへの対応が時代の要請であり、大学として率先して取り組むべき課題であることは明白です。しかし、実際に進行中の教育内容を、モデルコアカリが提示する「756」もの膨大な資質・能力の項目と照らし合わせ、どの科目でどのように教授され、学修者の到達度がどう評価されているかを精緻に確認する作業は、決して容易ではありません。

例えば、私が担当する在宅看護関連科目を例に挙げれば、「在宅療養者や家族の健康課題に対して活用する社会資源を理解している」「暮らしの場や地域特性の違いによる看護の方法を理解し、支援計画を立案できる」といった項目は在宅看護の核心部分であり、対応関係は明快です。しかし、「家族に関する理解」や「多職種協働」に関する資質・能力は、カリキュラム内の複数の領域に分散して掲載されているため、膨大な項目を読み込み、関連性を把握しなければなりません。

また、到達度の評価においても、「Does(できる)」「Shows how(やってみせる)」「Knows how(やり方を知っている)」「Knows(知識として知っている)」という段階的な評価軸の検討が必要です。現実には、本来「Does」や「Shows how」のレベルで評価すべき項目であっても、時間的・人的な制約から、やむを得ず「Knows how」や「Knows」の筆記試験的な評価に留まっているケースもあり、その乖離をどう埋めるかも大きな課題です。

このように、モデルコアカリの一覧表を前に、各教員は自らの教育内容の点検と今後の展望について試行錯誤を続けています。今後は、個々の科目の点検結果に基づき、学部全体としてより強化すべき教育内容を特定し、それを実際のカリキュラムに落とし込んでいく本格的な作業が控えています。

学ぶべき内容が多様化し、看護学教育に求められる水準がますます高まる中で、大学としての個性や学生一人ひとりの自由度をいかに担保しながら、理想的なカリキュラムを構築できるか。頭を抱える日々は当分終わりそうにありません。しかし、カリキュラム委員会の先生方の強力なリーダーシップのもと、慶應看護らしい、より質の高い教育体制を築き上げていけるよう、引き続き粘り強く取り組んでいきたいと考えています。

永田 智子 看護医療学部長/教授 教員プロフィール