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2025.09.30

ロブスターを探して|常任理事/政策・メディア研究科教授 土屋 大洋

米国東海岸を北上し、予定より一時間弱早く目的地に着いた。訪問先の扉を叩くにはまだ早い。伊藤公平塾長とグローバル本部のNさんとともにブラブラしようとレンガを敷き詰めた歩道を歩く。

ハーバード・スクエアに並ぶ店にはほとんど見覚えがない。ハーバードの生協で本棚を眺め、今のハーバードの先生たちはこんな本を書いているのかと感心する。

約束の時間が近づき、目的地に戻って呼び鈴を鳴らす。自らドアを開けてくださったのはハーバード大学のアラン・ガーバー学長だ。静かな部屋のソファに座り、日米の大学をめぐる状況について意見を交わすことができた。

同席した副学長は、ハーバード大学のアーカイブに残る古いビデオを2本見せてくれた。1934年にハーバード大学の野球部が来日し、慶應義塾大学や早稲田大学の野球部と試合をしている様子が残っていた。モノクロで音声はないが、ハーバード大学の野球部部員が観光している様子も映っている。

こうした過去のつながりを大事にしながら、今後の協力を発展させていこうと約束し、辞去した。

すぐに車でボストンのローガン空港へと向かう。チャールズ川沿いの道を進むと、左側にマサチューセッツ工科大学(MIT)が見えた。2008年3月から1年間過ごした場所だ。時間があればMITにも立ち寄りたかった。自宅アパートの近くにあったロブスターのレストランにも行きたかった。

ロブスターだけではない。MITでの1年間は、松坂大輔や岡島秀樹が在籍していたレッドソックスの野球の試合、タングルウッド音楽祭、相部屋だった研究室、短いレクチャーをさせてもらったMITの教室、しんしんと降り続く大雪、ガタゴトと動く地下鉄、いろいろな思い出がある。いっさい無駄な時間を過ごさなかった自信はあるものの、しかし、いろいろあって研究はなかなか進まず、1年間で論文を数本書くだけで終わってしまった。図書館の席から窓の外を眺めて、思うようにはいかないなと考えていたことを思い出す。

そうした場所に戻ってみたかったが、しかし、今回は時間がない。そういえば、チャイナタウンで食べたロブスターの生姜炒めは絶品だった。まだあるのだろうか。

空港に着き、荷物を預け、セキュリティを通り抜けると、最後の望みのリーガル・シー・フーズを探した。ロブスターや牡蠣、クラムチャウダーで有名なボストン近郊のレストラン・チェーンだ。コンコースにテーブルを広げたコーナーがすぐに見つかった。しかし、メニューを広げると、街中のレストランで出されるような丸ごとのロブスターは提供されていないことがわかってがっかり。飛行機を待つ間、短時間で食べることが想定されているのだから当たり前だ。

ロブスターの身を挟んだロブスター・ロールとクラムチャウダーのセットをいただいた。コールスロー・サラダやCape Codブランドのポテトチップスも付いてきた。なつかしいのでポテトチップスは鞄にしまい込む。ちょっと物足りない気もしたが、時差ぼけの夕飯にはちょうど良い。

しかし、会計の金額を見てびっくり。日本円に換算してもう一度びっくり。インフレで価格が上がっているし、円安でもっと割高感がある。きっと丸ごとのロブスターがメニューにあっても価格を聞いて頼まなかったかもしれない。そういえば、3年前にニューヨークの小籠包(おかしら日記:ニューヨーク物価)にびっくりしたことも思い出した。いつかまたMITに戻って研究したいという気持ちはしゅーっとしぼんでしまう。


土屋大洋 常任理事/政策・メディア研究科 教授 教員プロフィール