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2025.07.29

在宅実習棟をご存じですか|看護医療学部長補佐 永田 智子

湘南藤沢キャンパスの看護医療学部の建物を正面から見ると、3階建ての校舎の左側に、渡り廊下でつながった2階建ての建物の存在に気づきます。その建物には外側にも玄関があって、独立した別の家のようにも見えます。これは在宅実習棟と呼ばれる建物で、屋内の渡り廊下の手前に「在宅看護実習室」という標識があるので、これが正式な名称と思われますが、在宅看護領域の教員を含め、多くの教職員は在宅実習棟、あるいは在宅演習棟と呼んでいます。

在宅実習棟の中に入ると、アクリル板越しに中を見ることができる浴室が2つ、建付けの異なるトイレが2つあり、その先には一般家庭と同じような玄関があります。廊下の突き当りには和室、そしてメインの空間は広々としたフローリングとなっていて、キッチンのしつらえが手前と奥の2か所あり、ダイニングテーブル、介護用ベッド、ポータブルトイレなどを置いたうえで、20名程度が椅子に座って講義を聴いたり、各所に散らばって演習をしたりすることができるスペースとなっています。想定としては広々としたリビング・ダイニングといったところでしょうか。奥には小上がりの畳のスペースもあり、座卓と座布団でくつろぐこともできます。階段で2階に上がると、一般家庭の居室のような1部屋が設けられています。また1階のメインの空間は吹き抜けになっていて、2階の廊下から見下ろすことができ、浴室なども2階から見学することができます。

看護師養成課程に「在宅看護論」が位置づけられたのは1994年からです。多くの看護教育機関には、一般家庭のリビングや和室を模した在宅看護実習室が設けられていますが、本学のような規模で設置されている教育機関はあまり例を見ないように思います。2001年の学部創設の際に、いかにコミュニティケアに力を入れていたかの証左と考えられます。以前は吹き抜けの空間を利用して、在宅ケアの体験の様子をビデオ撮影し、在宅看護の教材を作成するという演習も行われていたそうです。

現在の看護医療学部の在宅看護に関連する科目の中では、学生が在宅実習棟において、療養者の生活援助に関する演習を行います。和室では布団に臥床している療養者の洗髪方法を学び、浴室では福祉機器を用いた入浴介助の方法を学びます。フローリングの居室でベッドからトイレまでの車いす移送を行い、一般家庭の作りのトイレに療養者を移乗させるという動作も、在宅実習棟ならではの演習になります。また、酸素濃縮器を在宅実習棟に持ち込み、鼻腔カニューレを装着して酸素を吸入しながら浴室やトイレ、2階の居室に移動する動作を体験し、療養者の日常生活上の困難を実体験しながら、患者教育の要点を学びます。さらに、4年生の在宅看護実践実習では訪問看護師とともに療養者の居宅を実際に訪問して実習を行いますが、その直前オリエンテーションでは訪問時のマナーの再確認を行うのに在宅実習棟を活用しています。このほかにも、多様な環境での看護を体験できることから、在宅実習棟は他の看護学領域の演習においても活用されています。一方で、一度に利用できるのが最大で30名程度であり、1学年110名程度が同時に利用するにはグループ分けなどの工夫が必要という限界もあります。

この教育資源を有効に活用するため、学外の皆様にも在宅実習棟を使っていただく機会を設けています。最近、在宅看護領域ではSFCキャンパス最寄りの「地域の縁側」である「もんのきの家」において、健康や介護に関する講座を実施しており、先日は地域住民の皆様に在宅実習棟にお越しいただき、「転ばぬ先の知恵〜おうちの中の危険予知〜」と題する転倒予防講座を実施しました。布団の脇のスタンドや携帯の充電コード、水にぬれた浴室の床、めくれたキッチンマットなどを見ながらクイズに挑戦したのち、答え合わせとともに転倒予防についての知識を得るという企画で、皆様には楽しく参加していただけました(写真はいずれもその時の様子)。


在宅療養の実際を多人数で体験できる場は大学にとっても地域にとっても貴重であり、今後も在宅実習棟を学内外における教育・研究や社会貢献に有効活用していきたいと考えています。

永田 智子 看護医療学部長補佐/教員プロフィール