これほど大山(伯耆富士)の全容がはっきり見えるのも珍しい。
今年も未来構想キャンプの季節がやってくる。2022年に大山町・南部町を舞台にスタートした「未来構想キャンプ in 鳥取」。キャンパスを飛び出し、鳥取県の支援を受けて実施する、新しいタイプの滞在型ワークショップだ。自治体との共催、そして冠開催という形態自体、新しい試みでもある。
未来構想キャンプ in 鳥取は、鳥取県と進める「とっとり未来共創プロジェクト」の一環として実施してきた。例年の流れはこんな感じ。まず、自治体の支援によるフィールド調査で地域が抱える問題を把握し、解決に向けたプロジェクト4〜5件を、大学(SFC)側で立ち上げる。スタッフは大学院生を中心に10名ほどで構成。未来構想キャンプ本番を挟む10日間ほどの期間、あらためて現地に滞在し、私たちの武器であるXR(VR、AR、MR)、IoRT(Internet of Robotic Things)、センサマニュファクチャリングといった最新のテクノロジを適用したサービスプロトタイプを実装、関係者の評価を仰ぐ。未来構想キャンプの期間は、高校生・高専生もシステム開発者としてプロジェクトに参画する。その後、市町村自治体レベルでの意識共有と解決を目指し、要望の高かったプロジェクトに関して、数年スパンでの共同プロジェクト化を図る。そこではより密な社会実装と、地域への還元が目標となる。
未来構想キャンプは、大学での研究活動とこういった社会実装のプロセスを高校生・高専生に提示し、自分ごととして体験してもらう場でもある。
初年度以降、日南町(2023年)、鳥取市(2024年)でフィールド調査を実施し、それぞれの地域に根ざした「観光と産業支援サービス」、「地域ヘルスケアサービス」、「市街地の活性化サービス」を提案、共同プロジェクトとして社会実装に取り組んできた。現在も日南町と2件、鳥取市と3件の共同プロジェクトが継続中だ。この辺りの詳細は、過去のおかしら日記でも紹介しているので、ご存じの方も多いと思う(水とお米とORF(2023.11.28)、)未来のSFC生へ(2024.10.08)、師(せんせたち)走ってます(2024.12.03))。
一貫しているのは「Harmonious Augmented Town」という考え方。いま在るモノ、場所、暮らしを守りつつ、それらの価値と存在感を拡張し、緩やかに未来へトランスフォームできる街を目指すというコンセプトだ。もちろん、この辺りの議論はキャンパス周辺を対象にしてもできるだろう。ではなぜ鳥取で実証するのか?
先のおかしら日記でも触れたように、SFCで先端テクノロジを研究する上で重要な視点は、「対象(ヒト・モノ・コト)を理解すること」、「世の中を知ること」、「世を動かすこと」の3つだ。その点、鳥取での実証には、対象(住民)との積極的なかかわりをつくりやすい、直近の課題があきらかである、ステークホルダや住民とともに世を動かせる、という明確な利点がある。首都圏周辺では考えられないほど、フットワークが軽い。言ってみれば、行く先々に研究参加型市民キャンパスがあるようなものだ。
2023年より私たちと深く密に関わってくれている日南町が、この春、新たなコンセプトを打ち出した。町を大学連携の拠点(HUB)として位置付け、関係・交流人口を創出し、地域課題を多様な視点から解決する試み、「Nichinan University HUB構想」だ。私たちSFCの教員と日南町との議論の中で生まれたアイデアであり、「まち×ひと×大学」の新しいかかわりを生み出すことを目指す。実はSFC以外にも、鳥取大学をはじめ、大阪公立大学、明治大学、東京大学もまた、日南町と様々な形でかかわりを持っている。2月には「大学とともに創る地域の未来 キックオフフォーラム ~地方創生・日南町モデルの共創〜」が開催され、様々なメディア(下記参照)で紹介された。各大学の教員と、町、県の関係者、町民の代表者が参加したパネルディスカッションに私も登壇し、この構想に期待する思いを伝えた。各大学が研究室規模で代わる代わる、数週間から数ヶ月単位で滞在し、提供された場で様々な実証に従事すれば、それだけで新たな関係・交流人口を創出できる。学生が町を歩けば、それだけで雰囲気も変わるだろう。実装にはもう少し時間がかかりそうだが、なんともワクワクする話だ。
政策・メディアという研究領域は「かかわり」の科学だ。人とモノ、生物、環境、世の中を繋ぎ、動かす媒体としての「メディア」と「政策」、「それらを実現する方法論と技術」を議論、提案、実装、そして実証する領域だ。手の届く場所に実証の場があるこの状況は、研究者として願ってもないことだろう。
梅雨空から一転して酷暑となった6月半ば、今年も宿泊施設やワークショップ会場等の視察、関係各所との打ち合わせと調整を兼ねた、事前フィールド調査に向かった。今年は2年ぶりに西地区に戻って米子周辺がフィールド。1泊2日の旅程しか組めず、かなりハードなスケジュールとなってしまったが、訪問した先々でこちらからのプロジェクト提案に前向きなコメントをいただいた。なによりも、自分ごととして能動的かつ積極的に関わってくれる姿勢が嬉しい。
そして、嬉しいことがもうひとつ。今年は、首都圏以外の地域からのエントリ数が全体の3/4にも達した。しかも、半数は山陰・北陸からの応募。4年続けてやっとここまできたか、、と同じく担当の瀧田先生と目をウルウルさせてしまった。
いつも以上に楽しい夏になりそうだ。
P.S.
タイミング的には、春のG1シリーズが終わったところでもあり、それ系のネタを期待していた皆さん、ごめんなさい。もちろん、日本ダービー優勝のクロワデュノールと鞍上の北村友一騎手、メイショウタバルを宝塚記念優勝に導いたレジェンド武豊騎手、書きたいことはいろいろあるけど、また別の機会に (^^)v
■日南町公式ページ
■読売新聞 記事(2025年4月3日)
■山陰中央新報 記事(2025年3月6日)「日南で研究や実証、大学生が成果報告 パネル討論も」
■日本海新聞 記事(2025年2月23日)「大学と創る未来へ意見 日南、連携の形考えるフォーラム」
■未来構想キャンプ in 鳥取 2023 ダイジェスト動画
■未来構想キャンプ in 鳥取 2024 ダイジェスト動画
■未来構想キャンプ