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2025.06.10

30年後の将来と、何を学ぶのか|総合政策学部長 加茂 具樹

「30年後の将来を考えて、いまSFCで何を学ぶのか」。これは総合政策学という講義科目の最終課題である。

総合政策学は、学部の必修科目であって、学部長と数名の同僚教員が協働して担当することになっている。これまでの4年のあいだ、私はこの科目を担当する機会を得た。環境情報学部にも同様に、環境情報学という講義科目がある。

私が考えてきたこの講義の目的の一つは、履修者が総合政策学をふくむSFCの学問領域の広がりを把握し、また自らの関心の外側にある学問領域の存在を知ってもらうことにある。そのため本講義は、ブックシリーズ「総合政策学をひらく」の各巻の編集責任を務めてくれた同僚や論考を寄稿してくれた同僚に、自らが論考を寄稿した巻の紹介と、寄稿した論考を説明しながら、SFCの面白さを履修者に伝えることを依頼してきた。

いま一つの目的は、履修者が自らの関心領域とは異なる同級生との交流を深めながら、SFCの学問的な多様性を実感することにある。そのため本講義は、入学前から学部で取り組む研究関心が明確な履修者に対しては、本当にその研究が重要なのかと考える機会を提供し、一方で時間を費やしてじっくりと研究関心を模索したいと考える学生に対しては、共に模索する仲間を探す機会を提供するように努めてきた。

総合政策学の「政策」とは政府の選択だけではなく、企業やNGOの経営、個人の信条といった広い概念であり、そうした「政策」をつくり、うごかす人間の選択は「総合」的である。こうして総合政策学は人間の選択を教育研究の中核においてきた。SFC、総合政策学が提供する学問領域が多様であるのはこのためである。そういうSFCにおいて学生がより生活をより楽しむためには、複数の研究領域を「掛け算」する発想が大切だ、ということを総合政策学という講義は示そうとしてきた。

これまで総合政策学は、最終日に「30年後の将来を考えて、いまSFCで何を学ぶのか」についての考えを発表することを履修者に求めてきた。履修者は、6-7人のグループに分かれて、数週間の時間をつかって課題を検討し、グループとして回答を作成する。そして講義の最終日に選抜された数チームが発表する。学生は、同級生が何を考えているかを識ることができる。

「30年」という時間は、学生にとっては想像しづらいはずだ。私もそうだった。だが、それでも考えて欲しい。少なくとも私が知っている「30年」という時間は、秩序観が180度転換した時間だった。30年という時間を経て、国際社会の民主主義と権威主義に対する認識、そして将来の国際秩序に関する展望は大きく変化した。「民主主義の台頭と権威主義の後退」という楽観から、「権威主義の台頭と民主主義の後退」という警戒への変化である。現下の国際情勢とテクノロジーの進化を踏まえると、変化の行き先はより一層に不透明である。未来は現在の単純な延長線の上にはなさそうだ。だからこそ「30年」という時間に備えなければいけないように思う。

先日、総合政策学は最終講義日を迎え、履修者は「30年後の将来を考えて、いまSFCで何を学ぶのか」を報告してくれた(総合政策学は春学期の前半科目)。ここで報告の具体的中身を紹介することはしないが、学生の創造力は多様で、タフだ。学生の生成AIに対する感度は極めて高い。それを所与のものとしつつ、どのように自ら(人間)の価値を見出してゆくのかを考えている。未来の姿を予測できないのであれば、創りたい世界を示し、そこから何を学ぶかを考える発想だ。これからのSFCの教員は、そうした学生に突き動かされるように、SFC創設時をこえる新しい時代の理念を想像してゆくことが求められている。

加茂 具樹 総合政策学部長/教授 教員プロフィール