日本と英国の大学が五つずつ集まってRENKEIというコンソーシアムを作っている。日本語の「連携」をもじって、Research and Education Network for Knowledge Economy Initiativesの頭文字を取っている。英国政府の国際文化交流機関であるブリティッシュ・カウンシルが支援してくれている。
公式には2012年から始まっていて、慶應義塾は2023年から参加している。そして、2025年4月から第3フェーズのRENKEI 3が始まった。日本のゴールデンウィークが終わりかかった5月6日に英国ニューキャッスル大学に集まり、7日から9日はすぐ近くのダラム大学でワークショップを行った。テーマは気候変動である。昨年12月に九州大学で同じく気候変動のワークショップを行った。
気候変動に加え、健康がもう一つのテーマである。2024年3月に英国サウサンプトン大学でワークショップを行い、その続きとなるワークショップを2024年12月に慶應の鶴岡タウンキャンパス(TTCK)で行った。米、日本酒、海の幸、山の幸が豊富で温泉も楽しめるTTCKは健康を語るのに最高の場所であった。「なんでそんなところに行くの?」と懐疑的だったイギリスの研究者たちも、実際に鶴岡に行くと大いに感銘を受けた様子だった。
今回、最初に集まったニューキャッスルは産業革命で栄えた街だ。かつては蒸気エンジンを動かす炭鉱で潤った。しかし、化石燃料を大量に使う時代からグリーン・エネルギーへの転換が起こっており、ニューキャッスル大学もその転換に歩調を合わせ、グリーン技術の研究開発に力を入れている。
一方、ダラム大学は英国で三番目に古い大学だという(1832年設立)。ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)も英国で三番目に古い大学だと聞いたことがある(1826年設立)。どうもこの解釈の違いは、英国議会が認めたものか、英国王室が認めたものかという違いのようで、議論が続いているという。
ダラムの街の滞在ホテルからRENKEIワークショップの会場までは、ウェア川の横を35分歩かされた。けっこうな距離がある上に登り坂もあるのだが、歩き始めてすぐに川の対岸に城が見えて来た。なんとこの城はダラム大学の所有だという。そして、慶應からの交換留学生もこの城の中に住むことができるそうだ。イギリス人が歩くのが好きというのもあるが、きっとこの城を見せたかったのだろう。
キャンパスツアーでは、城に隣接する大聖堂の中を見せてもらった。とても立派で、大学が管理しているとは思えない。街一番の観光名所といった雰囲気もある。というのも、城と大聖堂は映画『ハリー・ポッター』の撮影に使われたらしい。
ダラムの街の人口は約30万人。うち1割に当たる3万人が学生だという。大学のカレッジや建物が街中に広がっており、至る所でダラム大学のロゴが付いたビルがある。できたばかりというビジネススクールの建物は巨大だ。
英国の大学は、国内の学生と外国人留学生とで学費に大きな差を付けている。ところが、英国政府は国内の学生を増やすように大学に要請しているという。英国ではほとんどが国立大学なので、政府の言うことを聞かざるを得ないようだが、その結果、多くの大学の財政が赤字に転じていると聞いていた。ダラム大学の財政はそれほど悪くないとのことだが、それにしても設備の充実ぶりには目を見張るものがある。
ダラムは決してアクセスの良いところではない。ロンドンから電車で3時間以上かかる。一番近いニューキャッスル空港にも車をとばして30分程度かかる。ここで190年を超える教育と研究の蓄積を続けていることは尊敬に値する。SFCにも可能性があるはずだ。
ダラム大学の先生たちのリードにより、五つに分かれたグループがプレゼンテーションを競い合った。慶應義塾からは法学部の武井良修准教授と環境情報学部の和田直樹准教授がそれぞれグループのまとめ役を担った。日英のメンバー大学から若手研究者も多く参加した。日英連携からどんどん共同研究が生まれてくることを期待したい。


土屋大洋 常任理事/政策・メディア研究科 教授 教員プロフィール