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2025.03.11

メイク室にて|常任理事/政策・メディア研究科教授 土屋 大洋

年に数回だがテレビに出演することがある。あまり好きではないが、社会貢献の一環だと思い、自分が話せると思う事柄がテーマで、時間に余裕のある時だけスタジオにうかがう。たまに大学にスタッフが来てビデオ収録ということもあるし、今はリモートツールでのビデオ収録というのもある。

スタジオでの出演の場合、たいていはメイクという作業が入る。普段、自分で化粧をすることはないので、一番違和感を持つ作業だ。しかし、テレビ局や番組によってやり方が違う。いわゆるメイク室に行って丁寧にメイクしてもらうこともあれば、ロビーやスタジオの片隅に即席のメイクコーナーを作って行うこともある。早朝の番組に出た時は、時間待ちの会議室にメイク担当の方がフラッと現れて、ちょいちょいとやって終わりということもあった。

ある時、ふと思ってメイクさんに聞いてみた。「色白の人や色黒の人もいると思うのですけど、みんな同じものを使うんですか。」「いえ、その人に合わせて変えます。今日は4段階持ってきています。」「今日初めてお目にかかると思うのですけど、瞬時に見分けて決めるのですか。」「そうですね。パッと決めます。」プロの仕事である。

学生時代だったと思うが、読んでいた翻訳小説で登場人物の女性が、「じゃあ、私、顔を作ってくるわ」と書いてあって、何のことかとしばらく考えてしまったが、「make up」を「作る」と訳したのかと気がついた。自動翻訳じゃあるまいし。

せっかくメイクしてもらって番組に出演するのだが、出演後に来る連絡のほとんどは、ネクタイが曲がっていたとか、太ったんじゃないかとか、そういうコメントばかりで、話を聞いていないんじゃないかとがっかりする。社会貢献になっていないじゃないか! メイクが下手だったというコメントはついぞ聞いたことがないのでやはりプロの仕事なのだろう。

先日、総合政策学部の廣瀬陽子さんと並んでテレビに出演した。忙しい彼女は、局入りの時間になっても現れない。私はメイクが終わってスタンバイし、スタジオで簡単なリハーサルまで終えているのだが、廣瀬さんは北九州からの飛行機が羽田に着いたところだという。本番開始5分前にスタジオに滑り込んできた。

生放送が始まると、廣瀬さんは何事もなかったかのようにスラスラと司会者の質問に答えていく。予定台本にない質問がポンポン飛んできても全く問題ない。さすが何度も修羅場を乗り越えて来ているのだろう。

番組を見た古い友人から連絡があった。テレビに出続けている廣瀬さんに比して、私のことは見慣れていないのだろう。「廣瀬さんはほっそりしているが、お前はネクタイの結び目が細すぎるせいか、体育会のようなガタイの良さだな」とのこと。うーむ。テレビは横に膨らんで映るとはいえ、大変不本意だ。ダイエットをしなければならないようだ。メイクで横幅は変えられない。

土屋大洋 常任理事/政策・メディア研究科 教授 教員プロフィール