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2024.04.02

春から『も』SFC|政策・メディア研究科委員長 高汐 一紀

去る3月26日、桜雨とは言い難い冷たい雨の中、2023年度大学院学位授与式が執り行われ、政策・メディア研究科では、119名に修士(政策・メディア)の学位、11名に博士(政策・メディア)の学位、8名に博士(学術)の学位が授与された。

学位授与式自体は諸々の改革が進められたこともあり、学事報告から始まり、博士・修士・専門職学位それぞれの代表3名に対する学位記授与、塾長の式辞、教職員代表祝辞、締めの塾歌斉唱と粛々と進み、初めての壇上でやや緊張していた私には、あっという間に終わってしまった印象だった。式典終了後、場所を独立館の大教室に移し、改めて政策・メディア研究科の修了生の皆と顔を合わせた。先ほどまでとは違い、ラフな雰囲気に表情も和らぎ、研究会の友人や後輩と話が弾んでいる。保護者の方々だけでなく、教員も大勢、お祝いに駆けつけた。そんな修了生ひとりひとりに、ひと言ずつ添えながら学位記を手渡す。これは研究科委員長の特権だ。ちょっと嬉しい。

学位記の授与に先駆けて、少し話をさせていただいた。堅苦しいあいさつではなく、なるべくラフな感じになるよう意識しながら。たぶん、こんなことを喋っていたと思う。

(以下、記憶を辿っての文字起こしになります。実際に口から出た言葉とは若干異なるかもしれませんw)


本日、学位を取得された皆さん、本当におめでとうございます。この場で何を話そうか色々考えてはきたのだけど、やっぱり一番に聞きたいのはコレですね。

皆さん、高い学費の分、きっちり大学のリソースを使い切りましたか?

コロナ渦がようやく明けきて、色々と忘れかけていたコトを思い出しながらの学び、研究活動だったと思います。まだまだ思い通りには進められなかったかもしれない。そういう意味では研究はしんどい。それでも楽しいから前に進む。その結果が今日なのだと思います。おめでとう!!

さて、皆さんが修了した政策・メディア研究科。その大きな特徴だと「私が」思っていることがひとつあります。何だと思いますか?

それは、研究科で学ぶ学生のジェンダーバランスです。アカデミアの世界では、ジェンダーギャップがなかなか縮まらないことが大きな問題になっています。大学・大学院の教員数で見ると、日本の大学全体の女性比は26%、私大で30%、国立大は19%だそうです(2021年度朝日新聞・河合塾調べ [1])。で、我が慶應義塾(大学・大学院の専任教員)はというと、20%(2022年度調べ [2])。明らかにアンバランス。もちろん単純に人数を増やせばいいってものではなく、研究・教育環境の改善や、そもそもの働き方の改革があって初めて、数字になって現れてくるものでしょう。その前提の上で、私たちはアカデミアの源泉として重要な役割を持つ大学院で学ぶ学生たち、「研究者の卵」であり「教員の卵」である皆さんを育て、アカデミアにおけるジェンダーギャップを埋めていかなければなりません。

では本題。総・環・政メの数字はどんな感じでしょう?

2022年大学学生数(学部・研究科別)[3]を見ると、総合政策学部の学生の女性比は37%、環境情報学部では41%です。この数字は、日頃キャンパスを歩いていれば実感できると思います。悪くはない。では、大学院はどうだろう?話は逸れるけど、私は矢上の出身です。学部から大学院修士課程へ進学する段階で、女子学生の数はガクンと減る。当然女性比も悪くなる。博士課程ともなれば尚更です。「どこも同じだろう」、当たり前のようにそう思っていました。ところが、政策・メディア研究科では、修士課程在学生の女性比が41%。博士課程でも39%。学部での数字をほぼ維持している。これは凄いことです。政策・メディア研究科に限って言えば、将来に対して悲観的な数字は出てきません。まずは、このような他に類を見ない場で学び、研究できたことを誇りに思ってほしい。そして、いつかはアカデミアの場に戻ってきてほしい。

これは私からのお願いなのだけど、これからも後輩たちをナマアタタカイ目で見守り、ときには導いてほしい。もちろん、教員として戻ってきてくれたら一番嬉しい。山岸常任理事のように、教員ではなく学生の研究プロジェクトを直接支援するという形でかかわってくれるのでもいい。どんな形でもいいので、後輩たちそして政策・メディア研究科との「かかわり」を維持してほしい。

博士の学位を取得されたドクターな皆さん、本当におめでとう。そして、こちら側へようこそ。学位は、博士論文をまとめたテーマに関しては第一人者、世界一であることの証でもあります。世界で活躍する一線級の研究者と同じ土俵へ登ったのです。

修士課程を修了された皆さん、今日はここに19名の博士がいます。学位取得者副代表(政策・メディア研究科代表でもあります)のオオニシタクヤ君もいます。彼ら彼女らを見て、少しでも「カッケー!」と思った人、いつでもいい、博士課程に戻ってきてください。私は常にフトコロに3通の推薦状を持っています。あとはあなたの名前を入れるだけです。

式辞の中で、塾長が「学位の価値」について触れられていました。日本における学位(修士・博士)も、海外同様もっと高く評価されるべきです。皆さんもご存じのように、世界はまだまだ不安定な状況にあります。皆さんが今回勝ち取った学位は、そんな世の中を切り開き、道を創り、前に突き進む上での大きな武器になるはずです。私は、研究科委員長就任の挨拶文で「政策・メディア研究科の名前には『学』の文字がない」と書きました。皆さんの成果と学位が積み重なって、いつかは学問体系としての「政策・メディア学」が完成するのだと思います。一緒に積み重ね、新たな道を創っていきましょう。

最後にもう一度、本日は学位の取得、誠におめでとうございました。よかったね!!


そしてまた、新学期が始まる。
新入生の皆さん、ようこそSFCへ。
教職員、在学生一同、心から歓迎します。


1.朝日新聞記事,"大学の女性教員は26%世界から遅れる日本、リケジョ確保に支援金",2021年9月21日,
2.2022年 慶應義塾大学 教職員情報 教員数,
3.2022年 慶應義塾大学 学生情報 大学学生数(学部・研究科別),


高汐 一紀 大学院政策・メディア研究科委員長/環境情報学部教授 教員プロフィール