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2022.01.11

多様な個性を認め合う社会に向けて : 多様な生き方の発信|看護医療学部長 武田 祐子

何気なく観たTV番組は、私に大きな衝撃を与えた。2021年12月4日に再放送された「ザ・ヒューマン」NHK(BS1)である。

「オストメイトモデル 私が"モデル"になった理由」(初回放送日: 2021年2月13日)は、慢性偽性腸閉塞(CIPO)という難病により、人工肛門(ストーマ)を造設した内科医師である、エマ・大辻・ピックルスさんのドキュメンタリーである。

10代のころから胃の膨満感や腸閉塞に悩まされ、数十回の入退院を繰り返す中、40代で「オストメイト(腸で腹部に排せつ口となるストーマをつくった方)になった。

ストーマは、自然肛門のような括約筋がないため、排泄物を受け止めるパウチと呼ばれる袋を常に装着する必要がある。パウチの商品開発は、如何に皮膚に負担をかけずに密着し、耐久性があるかということに力が注がれ、その人に合ったパウチを選択すれば、日常生活行動や多くのスポーツにも支障ない社会生活を可能としている。

私自身は、遺伝性腫瘍患者の看護を専門としているため、遺伝性の大腸がんの治療・予防としてストーマを造設する多くの方のケアに携わってきた。ボディイメージに与える影響も大きく、精神的ケアも大切であるが、パウチの自己管理ができ、社会生活に支障がないことでストーマの受け入れや精神的な安定が得られると考えてきた。実際、多くの方が最初はトラブルを経験しても、次第に自信をもって活動を拡大し、スポーツクラブや競技への復帰を報告してくださっていた。パウチの発展はオストメイトのQOL(quality of life)向上に大いに貢献していると感じていた。

エマさんの活動は、日本の現状に満足し留まるものではなかった。日本で使用されているパウチの性能は優れていても、その多くは中身が透ける透明タイプで、ストーマや装着の状態、排泄物の観察がしやすいという機能を重視したものである。用途により肌色の不透明なものもあるが、スタイルを意識したものではない。いくら機能が優れていても、排せつ物を目にすることは「紙やすりでちょっとずつ自尊心を削られるような感覚」とエマさんは訴え、海外のオストメイトが使用する、黒や白色のスタイリッシュなパウチが手軽に入手できるように企業に働きかけ、全く透けない中身が見えないパウチの開発を約束させた。そして、海外で活躍しているオストメイトモデルとしての活動を始めたのである。オストメイトモデルは、専用の商品(パウチだけではなく専用に開発された下着や水着)を身につけてモデルとしてPRしたり、新しい商品を生み出すために企業にニーズを届けたりする役割を担っている。エマさんは国内初のオストメイトモデルとして、パウチを隠すのではなく、あえて見せる水着姿の撮影をしてSNSで発信する等、オストメイトについて広く知ってもらうための活動を始めた。病を乗り越えることを可能としたストーマの存在をタブー視するのではなく、自身の特性としてオープンにしながら、共に進化していく生き方を示すものであった。

彼女は、海外のオストメイトモデルの圧倒的な明るさや躍動感は、取り巻く環境が日本とは大きく異なることにも起因していると感じている。それは例えば下着の選択肢の違いにも表れている。お洒落な専用の下着や水着が様々な用途に合わせて選択ができ、生活の幅を大きく広げている。その開発にはオストメイト自身が関わり、人生の可能性を追究する姿は、多様性を受容する文化の違いや社会のサポートの違いを示すものとして映った。一方で、彼女自身が「周りの目が怖いと思ってしまうのは、そう思わせるものの正体は私自身、オストメイト自身なのかもしれない」と潜在する心理的バリアの存在への気づきが得られたと述べている。

外資系パウチメーカーのキャンペーンモデルに就任した彼女の活動は、きっと多くのオストメイトを勇気づけ、その存在さえ知らなかった人々が一つの個性として受け止め共存していく社会が形成されていくことを大いに期待したい。

武田 祐子 看護医療学部長/教授 教員プロフィール