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2021.12.08

本をつくります。|総合政策学部長 加茂 具樹

私たちは、総合政策学の現在を問う本をつくります。

総合政策学部が創設されたのは三〇年ほどまえの一九九〇年でした。その前年は、東西冷戦という国際秩序の象徴であったベルリンの壁が崩れました。秩序は流動する。そんな当たり前のことを再認識する出来事でした。未来にたいする期待と不安が混在した、高揚感のある時代だったといえます。

もちろん、「高揚感」の由来は、ひとり一人、異なっていたはずです。当時の私(塾高生だった)は、欧州の動きよりも、同じ年の北京での出来事に動揺していました。それまで、中国の歴史という懐のひろさに心を奪われていた私は、中国の政治という現実に頬をはたかれました。私が、よくわからない未来に向かって歩みはじめようしている中国と、そうした中国と向き合う日本の未来について考える契機が、一九八九年でした。

流動し続ける秩序と向き合い、従来の考え方や価値観が通用しないかもしれない未来と、それが突きつける諸問題に対処するための政策を考える。問題は何かを考え、それは本当の問題なのかを疑い、問題の原因を究明し、何ができるのかを考える。これまでの三〇年のあいだ、総合政策学部は、未来を考えるために実践知と理論知の対話をつうじて政策を考えてきたわけです。

一九九〇年代の総合政策学の実践を踏まえて示された最先端が、四巻からなる『総合政策学の最先端』(慶應義塾大学出版会、二〇〇三年)でした。これにつづいて『総合政策学 問題発見・解決の方法と実践』(慶應義塾大学出版会、二〇〇六年)が、そして「SFC総合政策学シリーズ」として五巻の研究成果が刊行されています。この成果の発信に到達するまえ、二〇〇〇年頃から総合政策学は、KEIO SFC REVIEWや総合政策学に関するワーキングペーパーをつうじて、議論を積み重ねていました。

いま、私たちがはじめたブック・プロジェクトは、二〇年前に示された「最先端」の先に焦点をあてています。そのために総合政策学の現在を確認するのです。現在を問うことで、さらにその先を問うことができます。私たちは何を継承し、何を発展させてきたのでしょうか。KEIO SFC JOURNALの最新号は、「古くて新しい総合政策学」と題する特集を編んでいます。

三〇年前に学生だった私たちは、SFCの教育と研究をつうじて、三〇年後のいまの世界にこたえる術を得たと思います。いま私たちが取り組むブック・プロジェクトをつうじて、私たちは、三〇年先の未来からの留学生にたいして、何を示すのかを議論します。そうすることによって、私たちSFCは何にチャレンジするのかを確認することができます。

このブック・プロジェクトは、十一月一日に総合政策学部に所属する教員だけでなく、環境情報学部、政策・メディア研究科に所属する教員、さらには看護医療学部と健康マネジメント研究科に所属する教員に呼びかけるかたちではじまりました。編集委員会を桑原武夫総合政策学部教授、琴坂将広准教授、清水唯一朗教授、神保謙教授、新保史生教授、廣瀬陽子教授、宮垣元教授、宮代康丈准教授、山本薫専任講師、和田龍磨教授とともに立ち上げました。これから(十二月一日現在)、合計五巻、六十七人の教員によって、本叢書は編み上げられてゆくことになります。本叢書は、「グローバルガバナンスと総合政策」、「言語文化と政策」、「社会イノベーションの方法と評価」、「政策プロセスと法制度の現在」、「総合政策学の方法論的展開」によって構成されます(いずれも仮題です)。

二〇二三年春にむかって、SFCは高揚感に包まれます。

加茂 具樹 総合政策学部長/教授 教員プロフィール