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2021.04.13

巣ごもりと本と暇|総合政策学部長 土屋 大洋

巣ごもりの間、自宅と大学の部屋を片付けたかったのだが、ほぼ全くできていない。むしろ、本を購入し、日々入ってくる書類を読まないまま積み上げているので、部屋はどんどん散らかっている。学部長室に積み上がった本に学部長秘書室の皆さんも笑っている。

ある日、ネット上でキース・リチャーズの書斎の写真を見つけた(Keith Richards libraryで検索すると出てくる)。キースは説明するまでもなくローリング・ストーンズのギタリストだ。好きなロック・ギタリストがギターではなく、本を並べている写真はうれしい。彼のイメージに違わない良い雰囲気だ。

さらに調べてみると、写真の出典は1995年に出版されたAt Home with Books: How Booklovers Live with and Care for Their Librariesという洋書だった。古書で購入して眺めてみると、いろいろな人の自慢の書斎の写真が満載されている。写真集用に片付けてあるのだろうが、憧れるような書斎ばかりだ。床に本を積んだりせず、きちんと書棚に収まっている。

私はほとんどお酒も飲めないし、趣味と呼べるものもない。本を集め、読む(そして時々、自分でも書く)のが趣味といえば趣味であり、仕事の一部でもある。

とはいえ、数年前から、積み上がった本を死ぬまでに読み切れるものかと心配になってきた。人生100年時代とはいえ、もう確実に半分には達している。本が溢れる時代、よほどの稀覯本でもない限り、退職時に大学の図書館は引き取ってくれない。大学に置いてある本が一気に自宅に届けば家族にとって迷惑以外に他ならない。西牟田靖著『本で床は抜けるのか』(中公文庫)を読んで、いずれ片付けないといけないと悶々としていた。

そんなとき、新入生向けのキックオフレクチャーにオンラインで来てくださった為末大さんのご著書『諦める力』(プレジデント社)に出会った。「諦(あきらめ)める」はネガティブな言葉ではない。それは「自分の才能や能力、置かれた状況などを明らかにしてよく理解し、今、この瞬間にある自分の姿を悟る」ことだという。

その上で、「僕の場合、モノを捨てることは、習慣というより儀式のようになっている。『本当に大事なものは何なのか?』ということを確認する機会なのだ。何もしないで放っておくと、気づかないうちにいろいろなモノをどんどんためこんでいる。だから定期的に『禊(みそぎ)』をしなければならないと思っている」ともある。なるほど......。

学部長になると待ち時間が多いと聞いていた。その間にきっとたくさん本が読めるに違いないと思い、密かに期待していた。海外出張に出る機会は減るだろうが、本が読めるなら良い、読んだら捨てていこうと考えていた。ところが、実際には全然待ち時間はない。コロナのせいで、次から次に何かを考え、決めないといけない。前例踏襲ですまないことが多い。

2年ぶりに対面で開かれた卒業式の控室で、何度も任期を重ねている他学部の学部長に聞いてみた。「コロナ前と後でどっちが忙しいですか。」「もちろん、今だよ。2、3倍は決めることが多いんじゃないかな。独裁者の気分だよ。」私にとって普通の学部長だった期間が最初の4カ月ほどしかなかったのでよく分からなかったが、やはり今はやることが多いらしい。ただし、総合政策学部、環境情報学部、政策・メディア研究科では2学部1研究科の共同ガバナンスなので独裁はない。たくさんの会議と打ち合わせを繰り返している。

そして、新学期が始まってしまった。また何も片付かないまま、夏休みを迎える確信がある。

卒業生の皆さん、すでに新しい生活に入っていることと思います。卒業おめでとう。新入生の皆さん、ようこそ! 新2年生も大変な1年でしたね。まだコロナは予断を許さない情勢です。気をつけて過ごしながら、楽しく学んでください。

土屋大洋 総合政策学部長/教授 教員プロフィール