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2020.11.10

切羽詰まるとイノベーションが起こる話|常任理事/総合政策学部教授 國領 二郎

61年も生きたのだが、毎日知らないこととの遭遇の連続で飽きることがない。今日も原因不明でパンクした自転車のタイヤの修理に行って、自転車屋のお兄さんと原因を一緒に考えているうちにタイヤの構造についていろいろ教えてもらった。知らないことだらけだった。夏にはコロナがだいぶ収束してから行き始めたピラティスのインストラクタには私の立ち方がいかにおかしくて、体全体のバランスを崩しているかを教えてもらって、直したら今まで我流でいくら筋トレしてもつかなかった筋肉がつき始めた。それぞれの持ち場にいろんな専門家がいて、世の中が成り立っていることを実感する。

学生に教えてもらうことが多いのは、大学教員の特権だ。教えるふりをしているが、実は学生から教えてもらう量の方が多いと感じているのは私だけではないのだろうと思う。今年は、技術だけがイノベーションを起こすのではなく、社会現象がイノベーションを起こす現象の分析がいま大切だという学生に付き合って、自然環境や戦争の影響でイノベーションが起こった例を調べてみた。確かに自転車はタンボラ火山の噴火で馬が減ってしまったから発明されたものだし、第二次世界大戦が「塹壕ラジオ」を生み出して、リリーマルレーンが敵味方を超えてヒットする現象を起こしたなど、事例が数々ある。この視点が2020年に大切なのは、もちろんコロナがあるからだ。閉塞状況を突破する工夫が何を生み出すか、興味津々で毎日のニュースを見ている。すぐに頭に浮かぶのは遠隔会議システムで、30年後の歴史の本には、火山ならぬウイルスが遠隔会議を爆発的に普及させた契機となったと記載されるのだろう。

イノベーションの歴史を見ていて、面白いのは、発明されてから、しばらくたってからテークオフする技術があることで、ニーズがない間は捨ておかれた技術が、社会情勢の変化の中でニーズが生まれて普及する。逆に、時代の変化に適合できずに急速にすたれていったビジネスモデルや技術もある。理事仕事の現実は、現在の大学の姿がポストコロナ時代に適合せずに絶滅してしまうのではと心配しながら、あれこれ対策に駆け回っている毎日だ。次のトレンドをしっかり読み切って進化させていきたい。

國領 二郎 慶應義塾常任理事 / 総合政策学部教授 教員プロフィール