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2020.09.08

亜空間でぽん|政策・メディア研究科委員長補佐/湘南藤沢ITC所長/環境情報学部教授 中澤 仁

中澤先生素材.png今年度の「おかしら日記」で誰も触れていないのでひょっとしたら秘密なのかもしれませんが、今年度はSFC開設30周年です。私が学生として在籍した25年前くらいと比べると、SFCでは木の幹が太くなって、生き物が増えました。昔は全く感じませんでしたがここ数年は、SFCでセミが2匹以上同時に鳴いた最初の日を梅雨明けの日と考えておけば間違いありません。カブトムシやクワガタもたくさんいます。私の他にも中高等部の生徒達が、甲虫を探してクヌギの木を見上げている様子を例年はよく見かけます。私の研究室のあるデルタ棟は、これは設計上のミスだと思いますが、研究室内にアリが入ってきます。「エンマコオロギを扁平にした鳴かない昆虫」も散見されますが、カエルやアシダカグモが奴らを狩ってくれます。ちょうど先ほど私の個人研究室に将軍様(=アシダカグモのこと。写真)がやってきました。心強いです。

こうした生き物の営みが何事もなく続いている今年度、キャンパスでの人の営みは残念ながら大部分で停滞せざるを得ない状況が続いています。春学期には、授業をオンラインで実施したり、七夕祭をバーチャル空間で実施したりして、新しい課題を発見しつつもそれらは大変うまくいったように思います。ただこれだけでは、キャンパスでの人の営みを部分的に再現できただけのように思えます。オンライン授業に関する学生アンケートでも、特に新入生からは、キャンパスを体感したいという趣旨のコメントが多く挙がっています。このことは、学生が自らの体をキャンパスにおいて得られる何かを、春学期には提供できなかった、ということでしょう。それが何かを考え、イメージ的には「亜空間」で「ぽん」と作り出すことが、いわゆるニューノーマル時代の新しいキャンパスのあり方なのだと感じます。インターネット越しの「オンラインコミュニケーション」や、3次元で視覚的に構築される「バーチャルキャンパス」を活用しつつ、それらに加えて新たな仕掛けをより多く効果的かつ総合的に展開する大学が生き残る気がします。実空間キャンパスと亜空間キャンパスとが相補的に、大学のレジリエンスや学生の満足度を高める効果が期待できるからです。

亜空間キャンパスは時空間に縛られないキャンパスですから、誰がいつどこにいようと、誰とでも瞬時に会うことができます。この性質を授業に当てはめれば、今年度春学期はどこにいてもインターネット越しに授業を受けられました。またオンデマンド授業はある意味では時間軸から離脱する手段です。そうすると、亜空間キャンパスでは少なくとも過去の年度を指定して授業を履修すること、たとえば1990年度の相磯先生の授業を履修して2単位もらうとか、ができても良さそうです。SFC GCには2002年度からの授業が保存されていますから、すぐにでもよりよく活用できそうです。これを前提にすると教員の側は未来の学生に対しても授業することになって、夢が膨らむ反面、考えることが増えそうです。教室と教室の間の空間、たとえばカモ池の周りや学食など、が担っていた役割を亜空間に作り出すことも重要に思えます。カモ池のほとりで学生同士が出会うような偶然を、空間を超えて実現する仕掛けがあると楽しそうです。木々の緑が目に飛び込んでなんとなく癒されたり、遠くで授業している教員の声が耳に入ってきて広がりや賑わいを感じたりするような仕掛け、あるいは例の匂いや学食の味を再現する仕掛けがあると、亜空間キャンパスの雰囲気づくりができます。こうした妄想をたくさん積み重ねれば、なかなか良いものができそうです。

元の話題に戻りますと、SFC開設30周年の節目にやりたい色々なことを昨年度後半に議論していました。秋学期はそれらを思い出して可能な範囲で実現していく時間になります。これらの色々に加えて、亜空間キャンパスの開設をSFC30周年記念事業と言い張れるくらいの何かができれば、それはSFCらしい。オンライン授業アンケートの結果からも、春学期に色々な取り組みが行われたことがわかります。亜空間キャンパスは多分いま工事中で、もうほとんどできあがっているのかもしれません。

中澤 仁 政策・メディア研究科委員長補佐/湘南藤沢ITC所長/環境情報学部教授 教員プロフィール