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2005.04.08

さまざまな風景を、飲む|熊坂賢次(環境情報学部長)

4月6日、朝の通勤電車。といっても中央林間駅に向かっているので、空間にはゆとりがある。なにげない空気のなかに、なんとかく違和感。ぼくが座っている前、やや斜め右に立って、ふたりのあきらかに4月入社の若者が、日経新聞をぎこちなく広げて真剣に読んでいる。さらにふたりが、ドアをはさんだ反対の座席で、これまた熱心に日経新聞を読んでいる。きっと1週間前までは、まったくの別のスタイルだったはずなのに、今はこんな姿になってしまった、と背中が訴えていた。まあ、いつまでもつかな、と思ったら、かれらの後方には、しっかりと座って、ビジネスマンを3年は経験しているだろう若者が、イヤホーンで音楽を聴きながら、右手の親指で器用にケータイメールをこなし、左手にはしっかりと缶コーヒーのWONDAをもっていた。あまりにもCMぽくって、笑った。この4人も、すぐにこうなるのだろう。

3月25日。シリアのダマスカス空港に到着。ゲートのところで、奥田さんが迎えてくれて、ほっとする。未知の世界には、道先案内人がほしい。なんたって、僕は普通の人なんだから。空港から出ると、なんとそこはカーレース場だった。アレッポ市までの390キロの長距離レースのフラッグが知らないうちに振り下ろされていた。タクシードライバーたちは、誰もみんなF1レーサー気分だ。他のクルマに道を譲るなんて、あきらかにルール違反で、常に勝つために、いかなる危険をも顧みず、少しでも先を走ることに全神経を集中し、街中が過激なまでにレースコースになっている。それは、僕には凶器であり狂気以外のなにものでもないのに、そこで暮らす人々にとっては単なる日常にすぎない。すごい、と驚嘆した。街をでると、そこはもう砂漠、ほとんどクルマがなく、いわゆる高速道路状態になった。緊張がほどけ、旅の疲れもあって、しばし睡眠。気がつくと、タクシードライバーの要望で、休憩。いわゆるドライブインで、初めてシリアの世界?を食べる。ハルウィーヤート・ジュブネというチーズまきの甘いお菓子で、和菓子の感触に似ていて、意外といけた。トルココーヒーの苦さが、よかった。奥田さんが、微笑んでいた。

4月2日。カミロボファイトを観戦。本来は、紙でつくった15センチ程度のロボットファイターたちの格闘を、一人遊びとして、たっぷりのイマジネーションを注入して遊ぶ閉鎖的(超オタク的)な世界なのだが、その一人遊びを、今回はイベントとして中継して、実際の観客に、あたかもプロセス興行をしているような雰囲気で楽しんでもらおうという企画なのだ。とっても変なイベントだけど、オタクの本質である閉鎖性を一気に公開すると、オタクの世界はどうなるのか、という実験的なイベントで、とても愉快なものだった。そんなカミロボファイトを楽しそうに観ながら、となりの女の子は、おいしそうにジンジャエールのウィルキンソンを飲んでいた。かっこいいね。

(掲載日:2005/04/08)

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