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2005.05.06

風呂敷とWalking Confusious|小島朋之(総合政策学部長)

職業柄だけでなく、車を持たないこともあり、いつも大きなカバンを持ち歩く。カバンの中には大量の書籍、雑誌や資料にラップトップのコンピュータも加わり、相当な重量オーバーである。家人はあきれ返り、「だから、すぐにカバンがだめになるよ」と言い、いくつかのカバンの併用を勧める。それでもついつい、お気に入りのカバンばかりを重用して、結局すぐに壊してしまう。カバンより、たとえば風呂敷か紙袋で持ち運ぶほうが、効率的で経済的かもしれない。

風呂敷で想い出すのが村松祐次先生である。先生はいつも風呂敷に資料を詰め込んで、カリフォルニア大学バークレーのキャンパスを歩いていた。その姿をアメリカ人の学生や教授たちは尊敬の念を込めて、「Walking Confusious(歩く孔子さま)」と呼んでいた。

村松先生は後に一橋大学の学長もされた近代中国社会経済史の泰斗で、私が1969年から72年にかけてバークレー校に留学中に、訪問教授として来られ、中国近代経済史を講義された。私がその授業のTA(Teaching Assistant)を担当した。

村松先生には奥様ともども帰国後も大変お世話になったが、困ったことなのか、嬉しいことなのか、私のライフ・スタイルに大きな影響を与えられてしまった。朝5時前に起床して仕事をするが、夜はほとんど仕事らしい仕事をせずに寝てしまうというスタイルは、村松先生の影響である。

先生の講義は午後4時半に終了するが、学生たちの質問に答え終わると、歩いて10分ほどの奥様が待つ宿舎に5時半には戻ってしまう。そのとき、私も当然のようにご一緒し、それから毎回のように酒宴がはじまる。ビールにはじまり、ワイン、日本酒入り乱れたところで、ご飯を食べ終わるのが9時前である。そして先生は「それでは、皆さん、お休みなさい」との一言で寝室に向かう。先生は午前3時には起床し、それから午前中いっぱい研究に没頭するのである。

取り残された私は、アメリカの友人たちと住む家に戻るが、酔ったままで本も読めず、論文も書けない。お酒は味わい深く、奥様の日本食の手料理も美味しく、どちらも捨てがたい。しかし、このままでは勉強もままならず、スカラーシップの継続も覚束ない。そこで私が出した結論が、「村松先生と同じ早寝・早起きしかない」ということであった。このとき以来、午前5時前の起床が習慣となっている。

(掲載日:2005/05/06)

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