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2005.06.09

日中関係とメディアへの過剰露出|小島朋之(総合政策学部長)

4月から連日、まことに慌しい日々がつづいた。研究対象としてきた中国で反日デモが毎週末に発生し、週末ごとにデモが各地に飛び火し、規模が拡大し、行動が過激になり、北京の日本大使館、上海、広州や瀋陽の総領事館にもデモ隊が押し寄せ、一部で投石など破壊行為が発生したからである。「政冷経熱(政治関係は冷却しているが、経済関係は熱い)」といわれてきた日中関係が全般的にさらに悪化するのではないか、と危惧されるような事態に陥った。

中国は隣国で、最近の目覚しい経済発展も加わり、日本にとって中国との関係は経済だけでなく、政治や安全保障の面でも重要であり、日本のメディアの中国に対する関心は強い。中国や日中関係について問題が発生すると、新聞やテレビ・ラジオなどメディアから私のもとにも取材が入る。これまでであれば、メディアの取材要請の際に、ワイドショーなどについては出演を遠慮し、公共放送を中心に応じてきた。

しかし、今回は「思うところ」があって、テレビ、ラジオ、新聞、週刊誌などについて時間のあるかぎり、取材に応じることにした。ある日はSFCの学部長室と会議室を行ったり来たりして、1日で4つのテレビ局の6つの番組のインタビュー収録を受け、その合間にラジオの生放送にも数回出演した。朝のワイドショーにも生出演してしまった。4月17日の塾長選挙の日には、三田キャンパスにいく前にNHKテレビの「日曜討論」に生出演し、さらにテレビ朝日の番組を収録し、塾長選終了後にまたNHKに戻って「海外ネットワーク」に生出演した。

「思うところ」とは、一つにある意味で日本のトップリーダーのあまりにお粗末な中国認識、東アジアへの無関心さに絶望的に気が滅入ってしまったこと、いま一つに日本のメディアが伝える中国像があまりに偏り、中国が一枚岩で論理的に整合性の取れた対日戦略を一糸乱れず展開しているとのイメージばかりが伝えられることに失望してしまったことである。中国問題と日中関係についての研究だけでなく、政策支援にも若干ながら関与してきた責任もあり、今回はきちんと対応して、日本政府の中国を含む東アジアに対する外交戦略の不在こそが日本の政策失敗の原因であること、中国の政権が決して一枚岩ではなく、論理的な外交戦略をもっているわけでもなく、明確な狙いをもって政策決定しているわけでもないことを、繰り返しメッセージとして伝えようと決心し、できるだけメディアに登場することにしたのである。

4月からすでに2ヶ月、徒労感が募るばかりである。しかし「問題の発見と解決」を実証実験を通じて試みる総合政策学部の教員として、徒労感で挫折するわけにはいかない。これからも気持ちを奮い立たせて、日中関係の安定に向けてできるだけの努力をしていかなければならない。

(掲載日:2005/06/09)

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