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2005.07.04

ビル・ゲイツと日本の大学|徳田英幸(政策・メディア研究科委員長)

6月28日朝、ビル・ゲイツが「マイクロソフト産学連携研究機構」のプレスリリースのために日本にやってきた。

この産学連携研究機構は、マイクロソフト(株)が、日本の大学・研究機関との相互交流を通じて、高度で先進的なテクノロジーや日本の市場ニーズに対応したテーマに関する共同研究、研究助成や研究者育成を推進し、日本のアカデミック界の発展に貢献することをめざしているとのことである。プログラムの1つには、他の多国籍企業(SunやCisco)が既に進めているように、日本の大学の研究者・研究室単位でテーマを選定し、研究支援を行っていこうというものである。また、学術交流、インターンシップ、フェローシップの実施などを通じて日本の大学との連携を深めていこうという趣旨である。

さて、一般の方々は、マイクロソフトという会社がWindows XPやMicrosoft Officeといったソフトウェアを開発・販売しているのはよく理解されているが、いったいどのくらいIT技術の研究開発に力を入れているかはあまりご存知ないのではないだろうか?研究自体は、MSR(マイクロソフトリサーチ)社が受け持っており、本拠地は、ワシントン州レッドモンドのマイクロソフトのキャンパスの中にある。CMU時代の同僚であったRick Rashid氏が研究所長をしている縁で、学生たちと数年前に訪問したことがあるが、キャンパスの名にふさわしく緑豊かな空間であった。現在では、700名以上の研究者が研究開発に携わっており、英国のケンブリッジ、サンフランシスコ、マウンテンビュー、そして中国の北京、インドのバンガロールに研究拠点を構えている。北京の拠点は、MSRA(Microsoft Research Asia)といい、中国語・日本語・韓国語などのアジア言語に対応した音声認識技術と情報処理技術を専門としたスタッフが活動している。

実際、米国のIT関連企業と大学との関係は、ここ数年の間に大きな変化があった。Intel Research社は、カリフォルニア州立大学バークレー校、ワシントン大学、カーネギーメロン大学、英国のケンブリッジ大学など、大学の敷地内やあるいは隣接するところに研究所を設置し、所長や研究員として、その大学の先生方を雇っているのである。企業側から見ると実に効率のよい研究所の立ち上げ方式である。テクノロジートランスファーにかかる時間もかなり短縮されそうである。また、大学側から見ると、大学の研究室やプロジェクトで進めている研究の成果と企業の研究所で行っている研究成果との線引きを、どのように明確にするかがクリティカルである。

一方、日本のIT関連企業も大学も「産学連携の重要性」を相互に認め、連携を深めてきているが、Intelのようなやり方は、日本文化になじまないために敬遠されているのであろうか? 実際、同じキャンパス内で、あるビルに入った時からは、Intelの仕事をし、別のビルにもどった時は、研究室の仕事をするというのはかなり大変であろう。私の友人でケンブリッジ大学教授のAndy Hopperが旧Olivetti Lab. の所長を兼務していたが、知財の帰属問題は、やはり大変気にしていた点である。

日本の大学と企業間の研究包括契約といったかなり緩やかな連携方式がいいのか?Intel方式のように、どんどん大学のキャンパス内での直接的な連携がいいのかは、今後の進捗を見てみるしかないが、大学の研究環境が魅力的でないと優秀な人たちが企業の方へ移ってしまうのは明白である。

SFCでは、年度末にむけてキャンパス内にインキュベーション施設が完成する予定であり、新たな連携の実践の場なることを期待している。

(掲載日:2005/07/04)

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