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2006.06.22

おかしらのモバイル生活術:モバイルの課題|徳田英幸(政策・メディア研究科委員長)

6月中旬、「International Conference on Networked Sensor Systems2007」という国際会議に学生たちと参加してきた。私は、一番最後のパネルセッションで、10年後のNetworked Sensing Systemがどのような形になっているかを議論した。UC BerkeleyのMuller氏は、MEMS分野の視点、NokiaのBoda氏は、ケータイ会社の視点、そして私は、ユビキタスコンピューティングの視点から議論をした。コーディネータ役のETHのLangheinrich氏の性格もあり、意見を戦わせるといった感じではなく、それぞれの分野の専門家が淡々と話した感じであった。それにしても、BraunschweigにしろCambridgeにしろ、ヨーロッパの大学では、時計がゆっくり動いているように感じるのはなぜだろうか?

さて、お題のモバイル生活術である。

私がお手伝いしているモバイル社会研究所の2006年12月調査によると、ケータイの所有率は、小学生中学年18.3%、小学生高学年24.3%、中学生50.0%、高校生94.0%ということである。すでに、日本におけるケータイは、我々の生活スタイルやワークスタイルを大きく変えるメディアとして、インターネット同様に大きなインパクトを与えている。しかし、テレビやインターネットなどに比べるとメディア研究の対象としてのケータイの地位は非常に低く、たとえば、「子供たちへのインパクト」といった重要な問題も十分に議論されているとは言えない現状である。

一方、私たちの生活は、ケータイだけでなく、移動手段の向上により、人やモノのモビリティが飛躍的に向上したが、実は、作業や仕事の環境などのモビリティもモバイル技術によって飛躍的に向上している。

たとえば、私のMacで動いている「Timbukutu Pro」というソフトウェアは、早くから作られたリモートデスクトップ環境を実現するソフトウェアの1つである。インター ネットにつながっているMacやWindowsのPCから自分のオフィスにあるMacの画面をみたり、遠隔から自由にマウスを操作することができるものである。地球上のどこからでも自在に自分の作業を行うことができる仕掛けである。最近では、VNC(VirtualNetwork Computing)をはじめ多くのPCがリモートデスクトップ機能を提供している。いちいちPCのある所に我々が移動するのではなく、移動した先に自分の作業環境を移動させてくるという方法である。

これは、言わば逆転の発想で、PCなどを持ち歩く必要はなく、任意の端末上に自分のオフィスの環境を移動してくるものである。新しい感染症や爆弾テロなどがはやると人々のモビリティは著しく低下する。そのような場合でも、モバイルコンピューティングやモバイル通信により、どのくらい人々の生活を支えることができるかは大きな課題である。

やや蛇足ではあるが、メディア論で著名なマクルーハンは、『メディアの法則』の中で、次の興味深いことをいっている。「あらゆるメディアは、我々の何かを「拡張」し、何かを「衰退」し、何かを「回復」し、また、そのメディアが極限まで推し進められると、その性格を急に「反転」させてしまうという4つの性質をもっている。」

いろいろなモバイルメディアについても深く考えてみる必要がある。

(掲載日:2006/06/22)

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