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2006.02.03

懐中電灯と葉書|徳田英幸(政策・メディア研究科委員長)

毎年この時期が近づいてくると多くの後期博士課程の学生たちが、博士論文審査のための学位審査委員会設置申請や公聴会後の最終試験を行なっている。今回の研究科委員会でも、5名に博士号が授与されたとともに、9名の学位審査委員会設置が認められた。

博士号を取得したということは、世界中、どこの国にいっても、研究者のプロとして、自分で問題発見し、解決・解消に向けて研究をナビゲートできる証しであるライセンスを持ったということである。これからの研究に向けての新たなスタート地点についたということであり、決して、ゴールではない。今回、学位を取得された方々も、これからが自分でナビゲートする本当の実践の場であることを忘れないで欲しい。

さて、お題の「贈り物」であるが、これまでにいろいろな「贈り物」を頂いたり贈ったりする機会はあったが、中でも、私が博士課程の学生時代に頂いた贈り物でとっても心に残っているものがある。

1つは、私のスーパーバイザであったProf. Eric G. Manningが所長をしていたCCNG(Computer Communications Network Group)の歓迎パーティの際に頂いたものである。それは当時、CCNGの秘書をされていた方から頂いたポケットに入るぐらいの小さな懐中電灯である。結構大きな箱をもらい、包みをほどき、中から懐中電灯を堀り出した時は、「あれ?」と思った。夜遅くまでCCNGでプログラムを作ったり、仲間とシステムのデバックをし、真っ暗な夜道をアパートまでもどる時に使うには、あまりにも頼りない小さなライトである。でも、次の瞬間、「そのライトであなたのPh.D.への道を照らしてください!」という素敵な言葉をもらった。決して高価なプレゼントではないが、何と心のこもったメッセージかと感激したのを今でも覚えている。

もう1つは、留学中に送られられてきた父からの葉書である。今であれば、ケータイでいつでも、どこからでもメールが送れ、常に「つながって」いられる。当時は、まだまだLANやWANといったネットワーク技術や分散システム技術を研究開発していた頃で、インターネットも存在しなかった時代ある。まったく期待していない時に、突然葉書が届くのである。仕事の忙しい時に、合間をぬって書いたと思われる走り書きである。なかなかの達筆で、私にはすぐには判読できない時もたびたびあったのを覚えている。たった1枚のスペースに家族のこと、日本のこと、時折々の話題を伝えてくれた。今でも大切にしまっている。

3月になるとSFCから多くの人たちが巣立っていく。住み慣れたSFCから社会に向けてtake offしていく人たちへ、心に残る、心のこもったメッセージを贈りたいと思っている。

(掲載日:2006/02/03)

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