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2007.02.01

米国政府は宇宙人と密約を交わしている|冨田勝(環境情報学部長)

『1947年ニューメキシコ州にUFOが墜落し、乗っていた宇宙人が生きたまま回収された。それ以来、米国政府は宇宙人と密約を締結。米国は宇宙人の高度な科学技術を教えてもらうかわりに、毎年25人の地球人が「人体実験」の試料となることを黙認する――。』

今から30年ほど前、日本は空前の「UFOブーム」で、ゴールデンタイムの「緊急スペシャル」によくUFO特番が組まれていた。UFOの写真やビデオから始まって、手をかえ品をかえ色々な衝撃スクープが登場したが、これらを一言で総括すれば上記のようになる。

なにをかくそう、私はこれらのことを完全に信じていた。

UFOが墜落した時の地元紙の一面トップ記事も読んだ。アポロ11号が撮影したUFO写真も入手した。宇宙人に誘拐されて頭に何かを埋め込まれたという人の話も聞いた。情報公開法で公開せざるを得なくなった米国政府のUFO関連機密文書にもすべて目を通した。調べれば調べるほど、宇宙人との密約説に関しての確信が強まった。極めつけは「MJ12」と呼ばれる極秘文書。トルーマン大統領の任期が終わったとき、次期大統領にこの密約についての申し送り事項が克明に記載されたもので、大統領の署名入りである。

そしてアメリカに留学したとき「UFO研究会」というサークルがあったので早速入会した。私が「MJ12や宇宙人との密約について解明したい」と熱い意気込みを語ると、まるで子供をあやすかのように「その意欲は大変結構なことだが、まずはこれを読んでごらん。きっと考えが変わるよ。」と言って論文の束を渡された。”Skeptical Inquiry”という名の、「ちまたの眉つばネタ」を科学で解明することを目的としたまじめな学術論文誌だ。実はそのサークルはUFOをむしろ批判的に研究する人たちの集まりだったのである。

そこで読んだのは、UFO写真・ビデオのトリックや、アポロ11号が撮影したUFOは実は窓に反射したフラッシュであること、墜落したのはUFOではなく気象観測用気球であったことなどを示す客観的・科学的な証拠が示され粛々と議論された論文の束だった。その冷徹なまでに客観的な論調はどれもとても説得力があり、やっぱりUFOなんて嘘だったのかなあ、と考えざるを得なかった。そして「MJ12文書の大統領署名が公開文書を切り貼りしたものである可能性」という題名の論文を読んだとき、MJ12も捏造だったことを確信し、ついに私が青春をかけて信じていたことに完全に終止符を打ったのだった。

「ほらね。やっぱり君も信じなくなったでしょ」と言われたときは全人格を否定されたくらい本当に悔しかったけど、まあ仕方があるまい。しかしこの苦い経験のおかげで、メディアの言うことを鵜呑みにせず自分なりに分析して納得するまで信じない、という良い習慣がすっかり身についた。

現代科学で説明できない「超常現象」が存在するかもしれない、ということを私は未だに否定しない。しかしテレビに登場する自称霊能者や超能力などの怪しいネタのほとんどすべてはインチキであるという確固たる自信がある。そして今でもときどき登場する「宇宙人の死体解剖!」みたいなスクープを見るたびに、若き時代のあのほろ苦い想い出がよみがえるのである。

(掲載日:2007/02/01)

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