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2007.05.01

おかしらにとっての福澤諭吉:福澤精神:独立自尊|佐藤蓉子(看護医療学部長)

わが国で、医療における倫理の問題が「生命倫理」として盛んに議論されるようになったのは1980年代に入ってからであった。その頃から、私は医療倫理あるいは看護における倫理の課題について考え続けてきたのだが、福澤精神の根幹を成す「独立自尊」は倫理の本質を端的に示す至言である。さまざまな価値観の主張や利害の対立の渦中にあって判断に迷うときや安易に流れそうになるとき、「独立自尊」と心に呟いてみるようにしている。独立した判断には揺るぎない自分の基準を持つことが前提になると思うが、あまりにも揺るぎない、頑固な基準は逆に“老害”につながるので一所懸命さまざまな立場の人の意見を聞くことによってそれを防ごうとすると、勘違いする人は“他人に振り回されるな”と忠告くださる。また、“自尊”の基盤には“他尊”が必要だが、その言い方にちょっと適切性を欠くと、それは“自損”になると早合点して急に強硬に主張しだす人も出てきて、そうなるとまとまる話もまとまらなくなる。とかくこの世は難しい。

福澤先生の指示で門下の高弟たちの合議に基づいて作成された「修身要領」には、「人は人たるの品位を進め智徳を研きますます其光輝を発揚するを以て本分と為さざる可らず」とある。どう行動することが品位を進めることになるのか、そんなに簡単には判断できない。いや、判断できる場合でも実際に行動に移すには“感情”や“利害”が邪魔をするなど、邪念に満ちたこの現人には結構難しいことも多い。痩せ我慢して踏ん張らないといけないこともある。29条に及ぶこの要領のなかでも2条の「心身の独立を全うし自ら其身を尊重して人たるの品位を辱めざるもの、之を独立自尊の人と言ふ」という部分が一番好きである。この言葉を思い出しながら、めっきり丸くなってきた背筋をぐっと伸ばすと少しは元気が出てくる。もうちょっと頑張ってみようという気になる。それにしても、“人たるの品位”を辱めざることはなかなか難しい。

(掲載日:2007/05/01)

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