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2010.03.01

密かにしてみたいこと|國領二郎(総合政策学部長)

表向きは、「してしまったことは反省はしても、後悔はしない」ことをモットーにしていて、人にもそうするようにお薦めしたりしている。でも実際には、タイムマシンに乗れるのなら、昔に戻って失敗しかけている自分に「気をつけて」と声かけたいことがたくさんある。半世紀も生きていると。修復するのに何年もかかった大失敗もあるのだけれど、それらをやり直させて欲しいというのは、ずるいように思われるので、直したいのは、どっちかというと、ささやかだけれど、赤面するような場面。

たとえば幼稚園のころに、先生から女の子前に出ておいで、と言われたのを聞きちがえて、元気よく飛び出してしまったときのこと。そのころは僕の世界の半分くらいのシェアを占めていた先生からからかわれて、大泣きしてしまったのを鮮明に覚えている。先生がしまった、というような困った顔をしていたのまで覚えているから、その時としてはささやかではなくて、大ごとだったのかもしれない。

もう少し大きなものもある。昔、NHKの総合放送で某社のことをほめたのに、それから2年ほどたった時に大スキャンダルとともに、破たんしてしまった。不正行為までは分からなかったので、しかたないと言えばしかたないのだけれど、プロとして発言するには勉強不足だったと言わざるを得なくて、今思い出しても恥ずかしい。公の場で発言する時はよほど気をつけないといけない。ただ、気をつけすぎていると今度は発言しないといけない時にしないことになってしまって、それも後から反省することになる。うーん、難しい。

過去の失敗をなかったことにしたいなどという都合の良いことを書いてしまったが、結局、時間はやはり不可逆でよいのだろうと思う。してしまったことが元に戻らないから学びがある。大切なのは、その学びを次につなげていくことなのだろう。

同じように、未来は分からないほうがいいのだろうと思う。この文章を書きながら、ついでにタイムマシンにのって未来がわかったらどうしたいかな、とも考えてみたのだけれど、馬券を買いにいこうか、くらいしか思いつかない。いま、キャンパスの未来のために一生懸命取り組んでいる未来創造塾が10年後にどんなふうになっているか、知りたい気持ちもあるけれど、分かってしまったら面白くない。未来は創りだすもので知るものじゃないのだろう。

(掲載日:2010/03/01)