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2010.03.25

百貨店の衰退とデパ地下潜入の欲望|高木安雄(健康マネジメント研究科委員長)

百貨店の不振と撤退が大きな社会問題となっているが、昔はデパートの食堂でお子様ランチを食べるのは大いなる憧れと喜びであった。栃木県の田舎育ちの私も同じように、「大都会」である宇都宮に出て、デパートの屋上で遊び、食堂でのお子様ランチは滅多にない至福の時であった。それゆえに、小学校6年生の東京見物の修学旅行で覚えている街の景色も、日本橋・三越のライオン像だけであり、デパートは高度経済成長がもたらす豊かさのシンボルであったのである。

やがて大学に入り、都会で暮らすようになっても、都会に不慣れな者にとってデパートはお金がかかっても安心できる場所であり、デートはもちろん大きな買い物の後の食事もお世話になったものである。日本橋・高島屋の地下の大食堂に始まり、経済的な余裕が生まれて来ると特別食堂に格上げして、都会の贅沢を味わうことが出来た。

しかし、いつしかデパートに行くことも少なくなって来た。スーツや家具など必要なものは揃ってしまい、デパートで買うものがなくなった時代を迎える。そうなると、欲しいものは毎日の食料品しかなくなり、デパ地下にある惣菜・弁当・スイーツ・酒などのあの豊かな食料品売り場だけが輝くことになる。2000年頃から脚光を浴びるようになったデパ地下だが、実は地上階のデパート本体の衰退の兆しでもあった。

有名店のテナント進出や物産展があると女房と連れ添って出かけて、地方の名産や名店の味をデパ地下で楽しんだのである。ある時、「閉店後に潜入して、全部味見してみたいなあ」と思わず口走ってしまい、女房の顰蹙を買ったこともある。その夢は未だ実現していないが、それまでデパ地下が残っているか、地下の食料品のみに特化したデパートの出店形態を果たしてデパートというのか、密かな楽しみは時間との勝負かもしれない。

(掲載日:2010/03/25)