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2010.03.15

愛おしきもの|太田喜久子(看護医療学部長)

タロはお釈迦様の誕生日に我が家にやってきた。動物保護センターからの移動中一鳴きもせず、赤帽タクシーの真っ暗な荷台から出てきた。茶色の柴のオス、自称7歳。

我が家に慣れるまで、餌は何をどのくらいあげたらよいのか、どうしたら落ち着いてくれるのか、暗中模索がしばらく続いた。

甘えん坊とマイペースの性格が入り混じっていた。日中は庭にいてほとんど鳴かないが、夜暗くなるとキャンキャン言い出し、来た日から夜は玄関に入ることになった。ちょっとした気配にすぐ顔を上げ警戒しているため、数日後から、夜間静かな曲を聞かせるとよく寝るようになった。

初めての日曜日、ドライブに行こうと後部荷物スペースに乗せてスタートしようとすると、突然興奮し、必死の形相で前の座席へと乗り越え助けを求めにきた。どこに連れていかれるのか恐怖を感じたようで、しばらくしっかり抱いてから出発となった。

何かにいら立ち、家族にかみつこうとし、それを怒るとかえって興奮したことがあり、原因が思い当たらず困ったこともあった。庭の囲いをかじったり、隣家に脱走したり、大嫌いなシャンプー後我が家を飛び出し逃げ回ったり、頭部さえすり抜ける隙間があればどこへでも行けるのだとわかった。

4か月も過ぎると、一日の生活のパターンもでき、体重も増えて落ち着いてきた。それまでは視線を合わせようとしなかったり、目を覗くとどこか遠くを見ているようだったが、ようやく視線が合ったと実感できるようになった。

来客にあわてている変な夢を見て夜中に目を覚ましたら、タロが足をばたつかせ大きな声で鳴いていたことがあった。タロも夢を見ていたのである。追いかけているのか、逃げているのか。夢を見て大声を出すことはその後も時々あり、あまり辛そうなときは声をかけるとハッと目覚めてキョトンとしているがすぐにまた寝入っていた。

夜間だけ玄関に入っていたのが、いつのまにかリビングの一角ですごし、やがて家じゅうほとんど自由に振舞い、それが当たり前という調子になっていった。

平日のいつも長いお留守番を仕方ないと思っていたようだ。だからお休みのときは、朝ご飯食べるのももどかしく、どこかに一緒に行こうよとアピールし、かなわないとわかるとしばらく騒いでいた。

他の犬にはあまり関心がなく、おとなしくてかわいいと撫でてもらうのをじっと我慢し、抱っこされるのが嫌いで足は突っ張ったまま。解放されるとブルブルっと身震いし、さっさと自分の居場所に戻っていった。

ふさふさの太い尻尾がくるりと巻かれ、歩くと左右に揺れた。足取りも軽やかで、散歩が楽しくて仕方なかった。かわいくて、自分の意思をもっていたタロは家族にとって特別な存在となった。そして、あっという間に8年10カ月が経ってしまった。

関わることや、世話などについて、タロは、最後まで全身でさまざまなことを教えてくれた。機会があったら、また述べよう。

(掲載日:2010/03/15)