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2011.01.13

日向ぼっこの縁側で至福のときを過ごす|高木安雄(健康マネジメント研究科委員長)

イギリスの公園で一日のんびりベンチに座っている老人に日本の新聞記者が、「寂しくないですか?」と質問したら、「おい若造、俺はお前の倍以上生きて来たんだ。思い出すことは沢山ある」と答えたという。その新聞記者は、「何、やせ我慢を言っているんだ」と思ったらしいが、のんびり公園でくつろいでいる老人に対し、野暮なお節介をしたものだと反省することも忘れてならない。高齢社会を迎えて毎日が日曜日の老人が溢れるわけであり、いちいち気にしていたら身は持たないはずだ。むしろ、すぐれてプライバシーである休日の過ごし方など質問してはならないし、定年退職して折角、サラリーマンのくびきから開放されたのだから、向こうが寄ってこない限り自由にさせた方がよいだろう。

同じ記者がイギリスの老人ホームを訪ねたら、500ピースのジグゾーパズルを毎日2ピースずつ埋めている老婦人に出会い、「来年の誕生日には孫たちがパズルをまたプレゼントしてくれる」と嬉々として話していたという。勤勉な日本人の私なら徹夜で目を真っ赤にしながら、2日で完成させてしまうにちがいない。来年の誕生日をにらんで、ゆっくりと時間をつぶしていくその生活態度は見習いたいものだ。

さて、「明日は一日お休みになりました。さて、何をして過ごす?」と聞かれたら、「縁側で一日、日向ぼっこだなあ〜」と答えておこう。美味しいお茶と虎屋の羊羹を横に置いて、その脇に甘酸っぱい梅干がそっと置かれているのがいい。のんびり新聞を読んでから、読みかけの本に移り、バックにはNHKラジオから農事通信員の便りが流れている休日。温かい陽が当たって、ひとり至福のときである。「たまには外に出なさい!」とうるさい女房がやって来たら、陽だまりの中で息が切れていたというのもひとつの夢だろう。

(掲載日:2011/01/13)