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2010.08.05

未来情報のビジネスモデル|國領二郎(総合政策学部長)

学部長仕事に追われて研究があんまり出来てないのだが、許されることなら、いま是非おいかけてみたいテーマに「未来情報のビジネスモデル」がある。
このことを考え始めるきっかけとなったのは、数年前に「ネットKADEN大賞」という、オンライン化された電化製品の優秀なものへの表彰の審査委員長というのをさせていただいたことだった。
ハードディスクプレーヤーなどが、予約録画機能の利便性を競い、オンラインデータと予約の連動などで工夫をこらしているのを拝見し、創意工夫に感心している間に、マシンの中に「予約情報」という名の「未来情報」があり、それがオンライン化して集積された情報となることによって「明日の市場」が見えることに気付いて愕然とした。

つまりこれは「明日の視聴率」がわかる技術だ。

20世紀を振り返ると「昨日の視聴率」が分かるだけで、汐留に超高層ビルが建ってしまった。消費者の動向を知り、的確なメッセージを送って需要を喚起することの経済的価値は高い。明日の視聴率が分かったら、もっとすごいことが起こるはずだ。
明日に行く前にもう少しだけ過去を振り返ると、POS(point of sale)システムを始めとする20世紀オンラインシステムは「今日」の情報を集約するのにきわめて大きい貢献をしたと言っていい。これによって、日々変化する消費者の動向を把握して、商品開発も、物流も大きく進化した。
そして、今度はインターネットで全ての予約機能をもった機器がつながることで「明日」が分かる時代が到来する。
たとえば僕が宅配ピザ屋さんをやっていたとして、顧客Aが明日テレビでワールドカップを観戦することがわかったら、その人にどんなメッセージを送ればいいだろう?私の貧弱な発想だと、ビールとピザのお届けの予約を前日にしてくれたら割り引くクーポン送るくらいしか発想が及ばないが...前日に予約してくれたら単に売上が増えるだけでなくて、今までのように、試合開始1時間前に不意に注文きていたのに比べて、材料の仕込みから、事前準備まで効率化できてコストも下がる。だから、ちょっと大きく値引いても大丈夫だ。
日本中のエアコンの予約情報が分かったら何ができるだろう。電力利用ピークが分かることで、供給計画を適正化することができるし、異常なピークがきそうな時は、「いま、設定温度を1度下げていただけたらx%電力料金おまけします」なんてメッセージを送って(難しく言うと供給コントロールのかわりに需要コントロールをすることが可能)、事業者も消費者もオトクにできる。
ネットKADEN大賞表彰事業は3年ほど前に終わってしまったのだが、あのころはまだ可能性しか感じられなかったアイディアの多くが、いま大きく開花する一歩手前まできていると思う。未来情報を実際に収集する道具が世の中に既に普及していて、懸案の個人情報の扱いなどについても、かなりルールとノウハウがたまってきた。その果実を採る最後の一歩の後押しをするのが、「利便性」を具体的な製品やサービスに展開するビジネスモデルの開発だ。
「未来情報のビジネスモデル」、ぜひ考えてみたい。

(掲載日:2010/08/05)