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2010.09.09

二刀流|村井純(環境情報学部長)

グローバル社会の構築はSFCの使命でもある。でも意外とグローバル社会という言葉の実感がない人は多い。「グローバル」という言葉の反対語のひとつは「ローカル」。社会として考えると、世界と地域ということ。地域社会の例として、国という単位がある。世界と国と社会の関係は、国際社会を意味することで、つまり、インターナショナル。つまり「グローバル」のもう一つの反対語は「インターナショナル」。私がグローバル社会という意識をしたのは、インターネットのドメイン名を決める仕組みの議論をしたとき。たとえば、jal.comというドメイン名は世界でひとつしか登録できない。仕組みから言えば、登録したときに誰も使っていなければ登録は成立したので、このドメイン名は、John A. Lettelleirさん(頭文字はJ.A.L.)という方が自分のビジネスとして登録した。この頃はインターネットはまだそんなに知られていない時。日本航空もインターネットで予約をするとは思っていなかった。あとから、インターネットが理解され始め、この種のぶつかり合いが起こるようになった。その調整をどうしようかという最初の議論はWIPO(World Intellectual Property Organization)と(私を含む)インターネット専門家とで行われた。1995年のことだ。この年はWindows95にインターネットがバンドルされたということで、社会としてのインターネット元年。WIPOは、国際連合の専門機関。つまり、国と国との調整で、世界の知財を担当するインターナショナル機関。その時にWIPOの専門家が、「本当にグローバルな知財の問題だ!」と驚いていたのを思い出す。つまり、ひとつの空間としてのグローバルという空間そのものが、インターネットで顕在化したわけで、それ以前は、立派な国際組織ですら実体感が希薄だったということだ。そして、WIPOと協力して初めてのグローバル空間のドメイン名の調整機構を作った。(ちなみに調整の結果ではjal.comはJohnさんに権利があるとしたけど、今は日本航空が利用している。)あれから15年、インターネットは「グローバル社会」の基盤としてSFCとともに成長した。環境、文化、言語、選挙、メディアなど、「ローカル」な地域や「国」が密着したことで、インターネットとグローバル空間の関係も日々変化している。こうした中でますます面白くなるのがSFC。

今のSFCには、日本の「ガラパゴス」化を専門的に議論できる人が多い。人を見つめ、日本を理解し、グローバル社会を創造する上で大切な議論だ。「ガラケー」という言葉も、本家ガラパゴスとされるケータイ文化を示した言葉で、今や普通名詞となりつつある。ガラケーの反対語の一つはスマートフォン。スマートフォン登場当初は、スマートフォンを使ってみたいけどガラケーを捨てられない人が両方持っているのが流行っていた。潔くないな。これを「二丁拳銃」と呼ぶ人がいた。「二丁拳銃」と言う言葉は、昭和の時代に映画のタイトルなどで流行った言葉だけど、良く考えてみるとあまり合理的な武器ではない。両手に拳銃持って有効な攻撃ができるとは思えないもの。ガラケーとスマートフォンに対してそこまで考えた表現だったのか。でも日本の剣の道は違う。「二刀流」は本差と脇差、太刀と小太刀、つまり、目的の違う武器をそれぞれ適切に使いこなすということだ。言葉と文化はグローバル社会構築の宝。最近、iPadとスマートフォンを持っているような人を見かけるが、こういうのが、「二刀流」か。

(掲載日:2010/09/09)