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中国対外行動の論理を
理解することの重要性

政策・メディア研究科 後期博士課程1年
劉 一鶴

所属プログラム:
グローバル・ガバナンスとリージョナル・ストラテジー(GR)

中国のスポーツ環境から課題を発見

 中国において、日本の高校サッカーや野球の大会は人気が高く、YouTubeのような動画配信サイトなどを通じて多くの若者たちが観戦しているのですが、中国の高校には部活動という慣習がなく、他校と対戦する場や国際交流の機会もありません。そこで高校生だった私は、日本の大会を参考に北京初の高校サッカー大会を企画し、実行してみることにしました。この試みは大成功を収め、今でも人気の大会として、大きく成長しながら続いています。

この経験で、私の中に「もっと大きなアジアの舞台で活躍したい」という夢と、「母国の課題を解決したい」という新たな目標が芽生えました。それまで想定していたアメリカ留学を変更し、日本への留学・進学を決意しました。最終的に英語で単位を修得できる「GIGAプログラム」を実施するSFCの総合政策学部に決めたのですが、この時点では実際に何を勉強すれば目標に近づくことができるのか、ほとんどわかっていませんでした。入学してみると、SFCでは、入試形態を問わず英語・日本語双方の授業を履修できること、学際的な研究が可能だったことから、学部生の最初から日本語・英語を問わず、自由に科目を横断しながら積極的に学習を進めていくことができました。このことは、英語のブラッシュアップと日本語習得においても、大きなメリットになりました。

国際関係から、母国・中国を客観的に見る

 入学後は、まずはスポーツ産業を中心に学習を進めました。次に国際関係・地域研究を学ぶ中で、「母国の特徴」が客観的に見えてきたことから、「中国そのもの」に関心が向かうようになります。3年生から加茂具樹研究室に所属し、本格的に中国について学び始めました。

中国に関心を持つようになったきっかけは、授業で触れた中東政治です。中国は中東地域と同様に長期間の戦争を経験したにもかかわらず、戦後の国家再建やアイデンティティ形成、ガバナンスの近代化に成功していたからです。中東と異なり、なぜ、中国には現代的なガバナンスが可能だったのか。このような疑問が中国研究への入り口になりました。入学当初の課題であった母国のスポーツ環境の改革から、国際関係を含めた中国社会全般へと研究の中心が移ったわけですが、広がった視野に合わせて研究トピックを自由に変更できることは、SFC最大のメリットだと感じています。

修士課程における研究テーマも、「新疆生産建設兵団」といった中国独自の政府組織のことから、複数の国境を抱える河川ガバナンスについて、さらには怒江ダム建設における中国官僚間の駆け引きまで、多岐に渡りましたが、そのつど、各トピックに対して先生方から具体的なフィードバックを受けることができました。このような厚いサポートが受けられる環境だからこそ、研究の幅を広げつつも、特定の分野に対する理解を深めることができました。

中国共産党のカリスマ的権威に触れる

 博士課程の研究テーマは、「舵を取る変化:鄧小平政権以降の中国における国家機構の進化」。この研究では、ポスト毛沢東時代の中国政府の官僚組織がどのように存続し、進化してきたかを理解することを目的としています。

文化大革命で幕を閉じた毛沢東政権(1949年〜1976年)にとって、中国共産党を革命党から政権党へと転換させ、党組織が縦に草の根を、横に中国の辺境地域を支配できる国家を建設することに成功することが課題でした。毛沢東政権以後、共産党は政権党として国家ガバナンスの方法を模索し続けています。特に、鄧小平が最初に行った1978年の経済改革以降、党は国家元首の任期制限や法律を強化するなど、カリスマ的支配と合法的支配の融合に向かいました。しかし、合法的支配への転換が行われたわけではありません。

国際社会との統合が進み、経済やメディア、世論が影響力を持つようになった現代の中国社会において、党が守り続けてきたカリスマ的支配をいかに正当化、維持するのか。政策執行機関である国務院をどのように改革し、国家の統治能力を高めていくのか。その背後にある政治的、社会的な要因の相互作用を詳しく分析し、その関係性や過程を明らかにしたいと考えています。

世界に橋を架ける中国研究

 現在、私は学部と大学院の両方で、国際政治や地域研究に関する授業のTA(Teaching Assistant)を務めています。将来は、大学で教壇に立ち、中国研究の醍醐味について学生たちに伝えたいと考えています。政治体制の違う国家について学ぶことは、民主主義の重要性を再認識するきっかけとなることでしょう。

中国政治の実態を読み解き、社会的な相互作用などを理解することは、中国の対外行動の論理を把握することに繋がります。それらを世界中に伝えることができれば、スムーズな外交的コミュニケーションに貢献できると考えています。

入学して7年が経ちましたが、「社会の課題を解決したい」という入学の時の情熱は、今もそのまま持ち続けています。SFCで多くを学び、疑問はより具体的になりましたが、学べば学ぶほど新たな観点が生まれ、課題は増えました。その中でも中国共産党、中国政府と中国社会の相関関係については、まだまだ大きなテーマです。今後も中国政治に関する研究を続けていきたいと思います。

研究室紹介

加茂具樹研究室

キーワード:現代中国政治外交、比較政治、東アジア国際関係