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バーチャルリアリティと未知の身体感覚

バーチャルリアリティと未知の身体感覚

政策・メディア研究科 修士課程1年
後藤 慶多

所属プログラム:認知・意味編成モデルと身体スキル(CB)

自分の身体が、本当に自分のものだと信じられる根拠とは

 ちょうど学部に入学した年、以前から関心のあったバーチャルリアリティ(以下VR)関連のサークルが発足。身体と知覚の不思議さに出会いました。欠損した身体部位が痛む「幻肢痛」や、ゴム製の手を自分自身の手だと感じてしまう「ラバーハンドイリュージョン」など直感に反する現象の数々に魅了されました。その後、VR関連の研究ができそうな森将輝研究会ができたので所属しました。

継続している研究のテーマは、「この身体は私のものである」と信じる「身体所有感」が生じる条件について。ラバーハンドやアバターを、自分の身体そのものだと信じてしまう鍵はどこにあるのか。逆に、どうすればそんな身体所有感が生じなくなるのか。モーションキャプチャーやHMD(VR用のヘッドセット)などを使いながら、フルボディ・イリュージョンの研究分野でよく用いられる実験心理学の手法で研究を進めています。SFCの学生から協力を得ながら主観評価や生体データを取得し、その統計を解析するスタイル。自分が立てた問いに対して、どんな実験を組めばよいかを考えます。先生や研究会の仲間からフィードバックをもらって実験をアップデートしています。

「なりたい自分になれる未来」までの時間を、少しでも短くするのが目標です

 この研究は基礎的なもので、身体所有感の条件が解明できればさまざまな応用が考えられます。もしかすると病気や事故で身体の一部を失った人のリハビリテーションにかかる時間を短くすることや、痛みなどの症状を緩和することに繋がるかもしれません。あるいは手術などを事前にシミュレーションする際にも、体験内のアバターを自分の身体だと思うことで、従来のプレパレーション手法よりも子供たちが恐怖を克服しやすくなるかもしれません。ロボットアームで人間の腕を4本や6本に増やすなど、身体拡張の分野で役立てる未来も考えられます。

理系や文系では分類できない関心分野も、SFCなら先生方の幅広い研究領域がカバーしてくれます。1年生から研究会に入れるし、関心が変わったら方向転換も可能。私自身も、身体運動、認知科学、知覚心理学、認知言語学などの先生方から指導をいただき、分野外の考え方も吸収してきました。他にも研究会のメンバーが取り組んでいるテーマにも触発され、新しい着想を研究に活かしています。そんなSFCのキャンパスは、いつも興味の誘惑で満ち溢れています。自分の研究テーマを他分野の方に見ていただき、助言をいただけるのは大きな利点。新しく出会った興味分野にどんどん取り組める柔軟さも魅力です。他の研究分野に興味を持ったら、研究会の変更や同時進行もOK。ここまでフレキシブルな研究環境は他にはないでしょう。

VRコンテンツの体験中にアバターがナイフで刺されると、あたかも自分自身が刺されたような不快感が生じた事例も存在します。また設定するアバターの種類、性質によって、体験者の性格や行動が変容することも知られています。例えばスーパーヒーローのアバターを体験すると、体験後にも利他的な行動をとりやすくなるようです。「なりたい自分になれる未来」は、きっとやってくる。そんな未来までの時間を少しでも短くしたいと願いながら研究を続けています。

研究室紹介

森将輝研究室

森将輝研究室

キーワード:
実験心理学、数理心理学、臨床心理学、身体教育学

森将輝研究室では、心理実験・調査を中心とした科学的手法を用い、心及び身体に関わる知覚・認知機能を研究しています。特に、視線知覚、空間の知覚と認知、発達障害・精神障害児者の知覚と認知、運動感覚、身体感覚、知覚・認知現象の数理解析などに関連する研究テーマに取り組んでいます。様々な知覚・認知現象の発見、モデルの検証、モデルの構成を目指しています。