編者対談

編者対談
開催日時・場所 2022年11月20日(日) 11:00-12:30/Ω21
出展団体 SFC30 総合政策学ブックプロジェクト
開催趣旨 「未来を考える」ための教育と研究に取り組むSFCにおいて、総合政策学部は「政策を考える」ための学問を展開してきた。私たちは、この学問を通じて、未来を見通す展望力、状況を捉える分析力、政策を設計する構想力、政策の意義を訴える説得力、政策を実施する実行力とともに、それらを総合する力を備えた学生を育てることに尽力してきた。
総合政策学は、あるべき姿を絶えず問い続けることが求められている学問である。キャンパスが創設されてから10年余が経過した2003年、叢書『総合政策学の最先端』が刊行された。それから20年余が経過した2022年に、総合政策学の新しいブックプロジェクトが立ち上がり、その成果として2023年春に全5巻からなる叢書『総合政策学をひらく』が刊行される。このセッションでは、私たちがこのブックプロジェクトを通して、SFCの総合政策の現在と未来をどう世の中に打ち出そうとしているのかを提示したい。
登壇者
加茂 具樹

加茂 具樹

総合政策学部学部長。総合政策学ブックプロジェクトにおいて『流動する世界秩序とグローバルガバナンス』に執筆者として参画。


山本 薫

山本 薫

総合政策学部専任講師。総合政策学ブックプロジェクトにおいて『言語文化とコミュニケーション』を編纂。


琴坂 将広

琴坂 将広

総合政策学部准教授。総合政策学ブックプロジェクトにおいて『社会イノベーションの方法と実践』を編纂。


和田 龍磨

和田 龍磨

総合政策学部教授。総合政策学ブックプロジェクトにおいて『公共政策と変わる法制度』を編纂。


清水 唯一朗

清水 唯一朗

総合政策学部教授。総合政策学ブックプロジェクトにおいて『総合政策学の方法論的展開』を編纂。

政策を考えるうえでの"リアリティ"とは

加茂 私は、「総合政策学とは何か」を考える上で重要なことは、「リアリティ」だと思います。私が学部長になってすぐに直面した課題が、学部をどのように広報するか、でした。学部とキャンパスを説明するキーワードとして、「問題発見・問題解決」「領域横断型」がありますね。この言葉は、私たちSFCに特許があると思っていたら、違いました。『慶應義塾大学ガイドブック』という学部紹介の資料があります。この資料を見ると、塾内の他学部も「問題発見・問題解決」という言葉を用いて、学部を紹介しています。SFCの言葉だと思っていたものを他学部も使っている。大変に驚きました。だったら我々は、その先に行かなければならないわけです。

政策を考えるうえでの

今進めているブックプロジェクトは、その模索の一環と言えます。そこで出てくるのが「リアリティ」です。

私は、「リアリティを持つ」という言葉は、「政策を考える」学問にとって、とても大切な概念ではないかと思っています。政策を考える際に重要なことは、自分は、政策を実施する主体なんだ、という意識です。政策を考えることは大事ですが、それを実行して問題を解決するのも自分であり、他人事ではなく、自分事として政策を考えなければいけません。それに加えて重要なことは、どのような環境の下で、政策決定しているのかをよく想像する、ということです。如何なる環境下で問題を発見しているのか、そして政策を形成しているのか、さらに政策を実施しているのかを考えることです。これが政策の「リアリティ」を考えるということなのだと思います。
例えば、決定する人間が全ての情報を把握できているわけではないということ、不完全な情報しかない中で、決定しなきゃいけないということです。これは、あらゆる組織に共通する課題だと思いますが、リーダーは、ほとんどの場合、完全なる情報を得て物事を決めることは難しいと思います。

具体例のもう一つは、関係するアクターが全員がハッピーになる政策決定はない、ということです。もちろん政策決定にあたっては、みなが利益を得ることを追求するべきですが、それは必ずしも保証されないということです。何らかの形で誰かが不公平だと感じる可能性があります。そういうときにどう対応するのかといった点も、政策を考える人間にとってリアリティのある部分です。

このように、政策を考えるのは重要だけれど、その際にプラスして政策のリアリティをイメージしながら考えていくことが重要ではないかと思うのです。この「リアリティ」について、皆さんは何かお考えのことがありますでしょうか。まずは、ここから議論をはじめていただきたいと思います。