叢書紹介

総合政策学をひらく 加茂 具樹

総合政策学をひらく

加茂 具樹

未来を考える。そのための学問を展開する慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)において、総合政策学部は、未来を歩み抜くための「政策を考える」ことを自らの教育と研究活動の中心においてきました。私たちは、総合政策という学問をつうじて、未来を見通す展望力、状況を捉える分析力、政策を設計する構想力、政策の意義を訴える説得力、政策を実施する実行力とともに、それらを総合する力を備えた学生を育てることに尽力してきました。

学部創設以来30年の実践をつうじて、あらためて確信したことは、社会の秩序は変動するということです。いま、これまで当然とされていた、様々な共通の価値や利益は流動しています。私たちは、「直面している問題の多くが既存の解決方法に懐疑的であり、常に新しい思考を要求している」と自覚すべきです。

「政策を考える」学問は、常に変化が求められています。個々の先端的な学問領域に通暁しつつも、それを総合的に捉え直して、学際領域に踏み込もうとするSFCの学問が魅力的であるのは、この変化に適応しようとする考え方を備えているからだといえます。

私たちはいま、この30年の変化のダイナミズムの線上にいます。本叢書の刊行は、SFC創設以来30年余の総合政策学の歩みを振り返り、現在の姿を確認した上で、30年先の世界を歩み抜くための「政策を考える」学問の姿を示すために、私たちは、『総合政策学をひらく』ブック・プロジェクトを企画しました。

政策は社会(人間活動)の産物という側面があるのだとすれば、政策を考えるためには、政治、社会のリアリティーについての的確な理解をもつことが求められるはずです。政策過程の現実、社会を構成するアクターの思考や行動、アクター間の相互作用を形づくるために考案された制度の機能などに精通し、またそれらにかかわる政策評価の困難性も理解してはじめて、「政策を考える」ことができるのです。

本叢書は、政策のリアリティーに接近するために、以下に示す5つの課題をもうけ、それぞれを一つの巻として位置付けることにしました。

  • 『流動する世界秩序とグローバルガバナンス』
  • 『言語文化とコミュニケーション』
  • 『社会イノベーションの方法と実践』
  • 『公共政策と変わる法制度』
  • 『総合政策学の方法論的展開』

本叢書の題名『総合政策学をひらく』にある「ひらく」という言葉に、私たちは、知の探求をつうじて常に新しいものに変化するイメージを織り込んでいます。様々な場面で引用される福澤諭吉先生の『文明論之概略』の言葉に、「昔年の異端妄説は今世の通論なり、昨日の奇説は今日の常談なり。然ば則ち今日の異端妄説も亦必ず後年の通論常談なるべし。」とあります。この言葉に織り込まれた知を動的に捉える考え方に、「ひらく」という言葉はつながるように思うのです。

本叢書を構成している各巻の表紙絵に、「人間」が描かれています。この「人間」は、「政策とは人間が何らかの行動をするために選択し、決断すること」(加藤寛・初代総合政策学部長)という意味において総合政策学を、そして「人間と人間をとりまく環境、それらに大きな影響をあたえる情報との関わり合いを学び、自ら問題を発見・解決できる能力を養い、将来の情報社会の広い視野で中心的な役割を果たす人材の育成」(相磯英夫・初代環境情報学部長)を目指し、ともに未来を考える学問を追究してきた環境情報学を表しています。


動画『総合政策学をひらく』ブックプロジェクトのねらい
2022年11月20日 SFC Open Research Forum(ORF) 2022 セッション「総合政策学をひらく」にて