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クライミングから学ぶスポーツ科学

クライミングから学ぶスポーツ科学

小西 桂 Katsura Konishi
学部:環境情報学部4年
出身校:慶應義塾高等学校(神奈川県)

木登りからクライミングへ

物心がついた頃から、木登りが大好きでした。真似して登った同級生が怪我をして、学校で木登りを禁止されてしまったほど。そんな私を見かねた両親が、小学生時代にショッピングモール内のクライミングクラブに連れていってくれました。無心で壁を登っているうち、中3で世界ユース大会に出場。 高校時代もユースの大会に出場を続けました。
もともと数学や物理が好きで、クライミングを続けながらスポーツ関連の学びも深めたいと考えていました。そこで慶應義塾高等学校からスポーツ科学の研究会もあるSFCに進学しました。

手の使い方の違いに注目

研究しているテーマは、「ロッククライミングにおける保持方式の違いがもたらすパフォーマンスへの影響」。保持方式というのは、クライミングでホールド(突起)を握る手の形のことです。厚さ6ミリほどの薄いホールドを持つとき、保持方式には大きく3種類(指をかける、親指を含めてにぎる、その中間)があります。体格も技能も同等の選手間で、この保持方式に違いがあるのが不思議でした。自分でも苦手にしている保持方式があり、得意になる方法を解明したいと思っていました。
研究では、実際のクライミングに近い環境を再現しています。懸垂ラックを用いて試技をおこない、筋電計測や力センサーを用いた外力測定でデータを収集。研究を進めるうち、重心などの力学的な要素について理解が深まってきました。今では他のクライマーが登っている姿に、ベクトルみたいな矢印のイメージを重ねられます。この研究は普段の練習にも浸透して、理論と実践が相互にフィードバックできるようになりました。

人間工学の発見

筋電計測で身体の使い方を分析するうちに、気づいたことがあります。最初は保持方式の大きな違いが指の角度であることから,手指の筋肉に大きな違いが見られると予想していたのですが、むしろ手首の屈曲・進展に関与している筋肉に大きな違いがあることがわかりました。これは手首を背屈させると自然に指が曲がる「テノデーシスアクション」の作用で、クライマーはこの人体作用を無意識でクライミングに活かしているのだと理解できました。
現在のトレーニング方法といえば、6ミリや4ミリの薄いホールドを保持しながらウエイトをつけて懸垂する古風な手法が主体です。今やっている研究によって運動のメカニズムを解明し、合理的なトレーニングを提案するのも目標のひとつ。現在は筋電計測が主体ですが、修士課程に進んだら実験機器も追加して研究を深めていく予定。計測ポイントも増やし、手首や前腕よりの機能についても研究を深めていきたいと思っています。

自由なSFCはクライマー気質にぴったり

必修科目が少ないSFCでは、自分の研究に必要な講義を自由に選べます。プログラミング関連の授業が充実しているのもSFCらしく、講義で身につけたスキルをデータ解析や電子工作に役立てました。
クライミングは、集団行動の苦手な人たちが行き着くスポーツ。競技者としてもそんな特徴を自認しています。束縛が少ないSFCは、自分が好きなことを継続しながら学問と両立できる環境が魅力的。スポーツ科学を専門としている仰木裕嗣研究会では、他のスポーツの事例も学べるので総合的な知見が得られます。筋電計測などの研究方法について、貴重な意見交換ができるのも研究会の素晴らしいところです。

研究とクライミングの両立

日本でもクライミングはかなり普及しましたが、まだ競技だけで自活できる選手はほとんどいません。私自身は2020年に日本代表に入れたものの、コロナ禍や持病の判明の影響もあってワールドカップへの出場はかないませんでした。現在の目標は、ワールドカップや世界選手権に出場して世界のレベルと競い合うこと。そのためにも、大学院に進んで研究とクライミングの両立を続けたいと思っています。クライミングを研究対象としながら、選手として活動できるSFCの環境は理想的です。