WS02:多言語教育ワークショップ ~多言語で俳句を詠む~ 課題
以下の文章を参考にしながら、課題エッセイを1,500字程度で執筆して提出してください。課題の内容は最後に書かれています。途中の説明をどのように参考にするか、または参考にしないかは自由です。
言葉は個人のアイデンティティと深く結びついています。複数言語を使う環境で育った人にとって、母語がひとつの言語ではないこともあるでしょう。日本語とドイツ語で書く作家の多和田葉子(1960-)が、『エクソフォニー:母語の外へ出る旅』(2012年、岩波書店)で指摘するように、外国語で書くのは移民だけとも限りません(はじめにより)。
多和田のように複数言語で書く作家は現代にもたくさんいますが、今回は特に面白い執筆歴を持つインド系移民作家のジュンパ・ラヒリ(1967-)を紹介します。ラヒリは、ベンガル人の両親を持つ、ロンドン生まれ、アメリカ育ちの作家です。家庭内ではベンガル語、外では英語を使いながら育ったといいます。1999年、『病気の通訳』でO. ヘンリー賞受賞、同作に収録された『停電の夜に』でニューヨーカー新人賞、2000年にはピューリッツァー賞他を受賞、その後も英語で執筆を続けます。
ラヒリの足跡で興味深いのは、作家として地位を確立した後、自身にとって第3の言語となるイタリア語で執筆と翻訳をはじめていることです。2025年5月、そんな彼女の翻訳論ともいえる『翻訳する私』の日本語訳が出版されました。本書の中で、ラヒリはイタリア語で書くことと、その行為者としての自分について「接ぎ木」のイメージを用いて語っています。そして「言葉も、人も、国も、すべて他者に接して、なじんで、混ざっていくから、新しい変化を遂げる」と述べるのです(ジュンパ・ラヒリ『翻訳する私』、新潮社、小川髙義訳、2025年、p.32、以下同書からの引用は頁数のみ記載)。
この接ぎ木のイメージからも想起されるように、多(他)言語学習者には、他者(異文化)との接触によって、様々な「変容」が起こり得るでしょう。ラヒリは翻訳の本質も「変容」(p.59)と捉えており、翻訳は多(他)言語での創作を考えるとき、避けては通れないプロセスの一つです。複数言語をある程度自由に使い分ける人でも、母語以外の言語を使う時に、頭の中で母語から別の言語に変換するプロセスを踏む人もいます。本書で、ラヒリは古代ローマの詩人オイディウスの『変身物語』について語りながら、翻訳とは「鏡をのぞいて、自分ではない姿が見えるようなもの」(p.73)と表現しています。ごく一般的には、翻訳とは原作を(少なくとも表向きは)忠実に別言語に置き換えることですが、ラヒリにとっては言語間、あるいは翻訳者自身の変容をも意味するようです。一方、国や地域によっては、翻訳不可能な、または翻訳が難しい言葉も存在します。例えば、日本の美意識を反映した「もののあはれ」や「わびさび」などもその一例と言えるでしょう。実は、この翻訳不可能性/困難さこそ、私たちに様々な異文化コミュニケーションの可能性を開くきっかけを与えてくれます。ラヒリは「翻訳には重大な責任がある」とし、「いわば臓器の移植や、心臓の血管手術をする医師のような、ぎりぎりの操作」にも喩えています(p.88)。真の異文化理解に裏打ちされた言語感覚を身につけるには、地道で粘り強い言語間の「接点の補強」(p.32)が鍵の一つになりそうです。
上述の説明文を意識しながら、次の問いに答える形で課題エッセイを執筆してください。
あなたが知っている言語の中から、他言語に翻訳不可能/翻訳が難しいとあなたが考える単語や表現をひとつ選んでください。その翻訳不可能性/困難さを通して、どのような異文化コミュニケーションの可能性が開けるでしょうか。あなたがこれまでどの言語をどのように学んできたか、その経験も踏まえて答えてください。
生成AIの利用について
あくまで補助ツールとしての利用はよいですが、出力したものをそのまま利用することはしないでください。生成AIを利用した場合は、どのように利用したかを末尾に記してください。
【提出方法】PDFにして送ってください。
【提出時の注意】
ファイルサイズは最大で10MBです。
ファイル名は「氏名.pdf」としてください。(例:慶應太郎.pdf)
※提出レポート内にも氏名を記載してください。
※未来構想キャンプにおける選抜課題では、生成 AIを自身の学びを深めるためのひとつの補助的ツールとして利用することはかまいませんが、出力した回答をそのまま提出することは認められません。ワークショップごとに条件を付す場合もありますので、課題をよく読み、取り組むようにしてください。