政策判断や意思決定のベースには、数学がある
赤松 輝海 Terumi Akamatsu
学部:総合政策学部3年
出身校:八王子桑志高等学校(東京都)
多様なバックグラウンドを持つ人たちの刺激
私の出身校は産業科の高校で、デザイン分野、クラフト分野、システム分野、ビジネス分野という4つの分野に分かれていました。私はビジネス分野に在籍していたのですが、大学で学びたいことを絞れずにいました。そういう時期に、SFCはカリキュラムが自由でやりたいことが何でもできると知り、SFCで自分の学びを探そうと思ったのです。
入学当初は数理社会学に興味を持ち、その基礎として数学を学び始めました。多様なバックグラウンドやスキルを持っている人がたくさんいる環境に身を置けたことは、いい刺激になりました。最初は周りのすごさに圧倒されていたというのが正直なところですが、だからこそ、基礎から一歩ずつ取り組んでいこうという気持ちになれたのだと思います。日々コツコツと学んでいるうちに、斬新な考え方や不思議な現象にあふれた数学の魅力にのめり込んでいきました。
集合論の衝撃
最初に驚いたのは、数学の基礎の一分野である集合論を学んでいる時です。集合論の目的の一つは無限を扱うことだと私は思っているのですが、例えば、「...0、1、2、3...」といった整数の集合と、「...1/2、1/3、1/4...」といった分数の形で表せる有理数の集合では、どちらの方が数が多いだろうかと考えてみます。
直感的には、有理数の方が多いと思われるのではないでしょうか。0と1という整数の間には、1/2、1/3、1/4...と無数に有理数があるわけですから。しかし、整数と有理数という無限集合は、同じ数だけ要素を含んでいることが解析されています。整数と有理数の1つ1つの数字を、無限に対応させられることを証明していくのですが、その考え方が衝撃的でした。
まったく異なる2つの幾何学
現在は、金沢篤研究会に所属して、幾何学を中心に研究しています。幾何学が対象とするのは空間で、空間へのアプローチの仕方でさまざまな分野に分かれます。例えば、微分幾何学は空間の曲がり具合や空間上の流れを解析するのに対して、位相幾何学は空間の大まかな形やつながり方を解析します。
私の前にあるスチール机の天板と、その上に置いてある除菌シートの円柱型ケース、丸く巻かれたコードの束で説明します。天板は平らで縁が直角に曲がっていて、ケースの側面のような滑らかな曲がり方をしているところはありません。空間の曲がり方を調べる微分幾何学では、この2つは違う空間だと考えます。一方、位相幾何学は大まかなつながりと形に着目するので、机とケースは同じ空間だと考えます。机の天板を左右の縁からギュっと真ん中に圧縮して、角をこすって丸くすれば、ケースと同じ形にできることがイメージできるでしょうか。
しかし、コードの束、これをドーナツだとすると、位相幾何学では天板とドーナツは別の空間だと考えます。ドーナツには穴が空いていますが、天板には空いていないからです。天板をどんなに曲げても穴を作ることはできません。位相幾何学の分析対象の一つは、空間の穴の数なのです。
違う分野が深淵でつながる不思議
空間の曲がり方を調べる幾何学と、空間の穴の数を調べる幾何学。微分幾何学と位相幾何学では、空間の何を分析するかが根本的に異なっているのです。ところが、まったく違うようでいて、実は密接に関係しているというすごい定理があります。ガウス・ボネの定理と言います。
空間の曲がり方を曲率といいます。球やドーナツの表面のような特別な曲面に対して、曲率を空間全体で足す計算をすると、その曲面のオイラー数の2π倍になるというのが、この定理の簡単な説明になります。オイラー数というのは、空間の穴の数によって定まる量で、位相幾何学で重要になる量なのです。根本的に考え方の違う2つの分野が、実は深淵でつながっているという数学の不思議な現象です。
身の回りの現象から生まれた数学
総合政策学部というと文系と思われがちです。しかし、何をするにしてもデータに基づいて考えなければいけないので、統計やデータ解析といった理系の分野もとても重要になってきます。それらの分野に応用されるのは数学ですから、数学は、政策判断や意思決定など、さまざまな重要課題のベースにある学問だと思います。
そのような数学のすべての分野は、身の回りの現象から生まれたものです。例えば、グラフ理論。点の集合と線の集合で構成されるグラフに関する理論ですが、これも18世紀頃にあった遊びのような問題が原点にあります。「川に架けられたすべての橋を一回だけ通り、町全体を巡るにはどのようなルートを辿ればいいか」という一筆書き問題から生まれ、進化してきました。数学は元々、日常とつながりのある学問なのです。
自分から動けば応えてくれるSFC
私もそうでしたが、自分がやりたいことが高校時代にわからないのは当然のことなので、焦らなくても大丈夫だと思います。しかし一方で、何もしないというのは違うと思います。自分で刺激のある環境に行き、自分でアンテナを張り、自分で知識を増やしていかないと、やりたいことがわかるようにはならないので、自分から動いて環境を変える努力をしてほしいと思います。
そういう意味で、SFCに来ればガラッと環境が変わります。すごく刺激的な場所だと思います。積極的なスタンスで学びに向き合えば、しっかりと応えてくれると思います。