新しいレスリングの道を切り開き、ムスリムとの架け橋になる
尾﨑 野乃香 Ozaki Nonoka
学部:環境情報学部3年
出身校:JOCエリートアカデミー11期生
運命の出会いがオリンピックに導く
小さい頃から体を動かすことが好きで、いろいろなスポーツに挑戦してきました。7歳の時、テレビでレスリング選手の浜口京子さんの試合を見て、「この競技、私もやってみたい!」と思ったのがレスリングとの出合いです。レスリングに魅了された私は、近くの格闘技ジムで開かれていたキッズレスリング教室に通い始めました。一生懸命練習するうち、技が決まるのが楽しくなってきて、どんどん強くなっていきました。
それからは常に全国のトップを走り続けてきたのですが、将来の目標はまだ定まっていませんでした。本気でオリンピックを目指すようになったのは、JOCエリートアカデミー(国際競技大会で活躍できる選手を育成する事業)からスカウトされた時です。最初のレスリングの先生がオリンピック経験者だったこともあり、レスリングは私にとって運命のスポーツだったのだと思います。
それ以来、オリンピック選手が合宿を行うナショナルトレーニングセンターに住み込み、レスリングに没頭してきました。
強豪校ではなく、SFCを選んだ理由
レスリング界では、私のようなキャリアを持つ選手は特待生としてレスリングの強い大学に進むことが多いのですが、私は高校でオール5の成績を収めるほど勉強が好きだったこともあり、進路に迷っていました。もちろん、オリンピックに出場したいという思いが一番にあったのですが、レスリングの道だけでなく、新しい世界を切り開きたいという気持ちも同時にあったからです。セカンドキャリアとして、レスリングの他にも情熱を持って取り組めることを探したいと考えていたため、幅広い研究分野があるSFCに興味を持っていました。 しかし、SFCに入学する場合、レベルの合う練習相手と場所を自分でも確保する必要があり、自分でオリンピックへの道を切り開かねばなりません。オリンピックを目指すには険しい道のりが予想されたのですが、それでも、SFCで可能性を広げたいという気持ちは消えませんでした。最後まで迷いましたが、「私ならできる」と信じ、覚悟を決めました。
私がSFCを選ぶとは誰も予想していなかったので、SFCへの入学が決まった時にはレスリング界から驚きの声が上がりましたが、両親は私のやりたいことを応援してくれました。
レスリングが繋いだムスリム研究
入学してから今日まで、レスリングと学業の両立を一生懸命がんばってきました。朝晩の練習と大学の授業、帰宅してから課題をこなす、といった多忙な毎日を送ってきましたが、2022年・2023年の世界選手権では金メダルを獲得するなど、私なりに結果を出してこられたのではないかと思います。
研究室に入る前は、スポーツや心理学系の勉強をメインにいろいろな授業を受けていました。現在は野中葉研究室の「ムスリム共生プロジェクト」で、イスラーム文化に関する研究をしています。イスラーム文化に興味を持つきっかけを運んできたのも、またレスリングでした。
私は、レスリングの試合で海外に遠征する機会がしばしばあります。なかでもイランはレスリング強豪国で、彼らのレスリングはとても勉強になるのです。しかし、同時に彼らの礼拝をする姿や食生活など、日本とはまったく異なる文化に触れ、「イスラーム教ってなんだろう」と不思議に思っていました。そこで、野中先生から、まずはイスラーム教について教わることにしました。興味が湧いて知りたいと思ったときに、実際に学べる授業があるのはSFCの大きな魅力のひとつだと思います。おまけにアラビア語まで履修できるのですから、本当に希少な大学だと思います。まさかイスラーム研究を始めることになるなんて、私自身が一番驚いているのですが、他の大学に進学していたらこの展開はあり得なかったと、SFCの幅広さを実感しています。
慶應生としてオリンピックの舞台へ
私の目標は、オリンピックで金メダルを獲得することです。これまで、慶應ではオリンピックでレスリング金メダルを取った選手はいないと聞いています。慶應初のレスリング金メダリストになれたら、最高にカッコいい。だからこそ、願わくは、慶應生としてパリオリンピック2024に出場したいと思っています(インタビューは2023年12月中旬に実施。その後、尾﨑さんは2023年天皇杯全日本選手権において優勝、2024年1月に行われたオリンピック代表決定プレーオフで勝利し、パリオリンピックへの切符を手にしました)。
そして、もう少し先の未来には、ムスリムとの架け橋のような存在になりたいです。イスラーム圏のレスリング選手は男性しかいません。体に沿うユニフォームの関係で、女性は参加できないのでしょう。しかし、ムスリムだけの特殊なルールのレスリングがあり、それには女性も競技に参加しているそうです。今後、SFCでムスリムへの理解を深めた上で、ムスリム女性のレスリング事情に踏み込んで話を聞いてみたいと考えています。そして、私にできる貢献の形を模索したいと思います。